241 ふたりの槍騎兵
中年の槍騎兵は、青い光に驚いた。精霊の光が見えたのである。彼はエステンデルスに生き延びた魔槍使いだった。イーリスの血族ではないが、精霊が見える。エステンデルスでは、魔法を使うだけで精霊喰いと決めつけられてしまう。魔法の才能を持つものは、運が良ければ精霊の助けで逃げ出す。或いは、隠す方法を学ぶ。運悪く見つかれば、命の危険があるのだった。
「これは?」
中年槍騎兵は、恐る恐るハッサンに聞く。
「遣い手の幸運を力に変える精霊が棲む刀だよ」
「遣い手の幸運を?それじゃあ、使うたんびに貴公の幸運が減るんじゃないのかね」
「そりゃそうなんだが、その辺は上手くやってるよ」
ニヤリと笑うハッサンに、中年槍騎兵は断るように首を振る。
「人様の幸運を奪うわけにはいかない。これを返すことはできないのか?」
ハッサンは虚を疲れて軽く口を開けた。
「はは、そんなこと聞かれたの、初めてだぜ!親爺さん、いい奴だなあ」
「貴公、ずいぶん具合が悪そうじゃないですか」
ハッサンは眼を細めると、のろのろと立ち上がる。
「俺はハッサンだ。幻影大陸から来た」
「海の向こうから?なんだってまた」
「何、ちいっとばかし、あいつらとの因縁があんのさ」
「ノルデネリエ魔法船団に恨みでもおありか?」
「そんなとこだ」
2人のやり取りに老槍騎兵が反応する。こちらは、まだ槍も剣も構えずにまっすぐ立っていた。
「貴公も、仲の良い精霊が囚われたのですかな?」
物腰柔らかな老兵は、労わるように黒い瞳をハッサンに向ける。
「ああ、いや、縁のある奴の仲間がやられてさ」
まだ話して良いか分からず、ハッサンは適当に濁す。
「精霊の友は我が友なり」
老兵が嗄れた声で宣言する。その言葉には誠が宿る。緑色の光が顔の周りにふわりと広がった。
「爺さん、あんたは?」
ハッサンが探りを入れた。
「これは失敬。それがしはエステンデルスの老兵。名を槍と申す者」
老兵は端的に自己紹介をした。
「同じく、諫言」
槍を構えた中年も名乗る。
「そんで、皆さんは、何でまたあんな開けたところに並んでるんだい」
エステンデルス騎馬槍隊は、川を見渡す堤の上に横一列で並んでいた。ノルデネリエ魔法船団から丸見えである。
「我らは先駆けでありましてな。隊長殿の采配ひとつで、攻め入りもすれば交渉もするのですよ」
老兵は説明した。
「船上に呼びかけんとて、岸に轡を揃えたところで、攻撃と防壁が同時に来たから驚きました」
「まずはお助けくださった訳を伺いたくて、此方へと参りました次第」
「なるほど。まあ、あっちは話す気なんざハナからねえようだがな」
ハッサンは苦々しく吐き捨てる。サルマンは相変わらず弓を引く。ハッサンは、多少回復して魔法に余力が出てきた。そこでハッサンが精霊に頼むと、ようやくサルマンにも槍騎兵コンビとの会話が理解できるようになった。
お読みくださりありがとうございます
続きます




