240 共闘
ルフルーヴ川に浮かぶ船団から、精霊たちがサルマンの矢を持ち帰る。幸運の力でほとんどまっさらなまま、大岩の陰に潜む射手まで届けていた。
近づいて来たエステンデルスの槍騎兵2人は、その光景に眼を見張る。気負わず声を掛けてくるハッサンにも、警戒の色を見せた。馬は大人しく立っている。鼻面と胴の一部を金属で覆われた戦馬だ。
「怪しいもんじゃねぇぜ?」
大岩を背に座ったままのハッサンが話しかける。しばらくじいっと見下ろしていた2人は、ちら、と眼混ぜをしてから口を開いた。
「そちらは?」
「言葉が解るのか?」
ハッサンは精霊の助けでエステンデルスの人とも言葉を交わす。ケニスたちに出会ってもう4年の月日が経つ。オアシスで暮らしていた間、通り過ぎてゆく異国の商人たちとも話をした。通じて当然だと思っていた。
だが、ここは海を挟んでこちら側、しかもマーレニカの港町以外の土地だ。本来なら知らない言葉を話しているのである。エステンデルス騎馬槍隊の2人は、見慣れない服装の浅黒い2人連れに、先ずは言葉が解るのかを確かめた。
その間にも、川の上にいるノルデネリエ魔法船団からは、空に陸にと攻撃が飛んでいる。ことごとく防がれる攻撃を横目に、槍騎兵は背筋を伸ばして立っていた。訓練された本職の兵士である。内心の動揺はしっかりと隠して、侮られないように努めていたのだ。
「言葉は解る」
ハッサンは答える。サルマンは何一つ理解していないが、話はハッサンに任せておく。それどころではないのだ。精霊が回収してくる矢を再び放つ循環戦法で、淡々と邪法の道具を砕き続けていた。
「そうか」
一言答える槍騎兵は、一見軽率にも見える。金属製の細かい鎖のようなものを編み上げたフードは、胴体にも繋がっていた。その上には厚手の袖なしを着て、膝は金属で覆う。靴は膝下まである長靴であった。腰に平凡な直刀を下げ、片手に槍を控えて真面目な顔を作る。
「ノルデネリエの邪法使いどもが、川底の輝石をごっそり持ち逃げしようとしてるぜ」
「輝石を?やつら、何をしているのかと思えば」
痩せて長身の老いた槍騎兵が言った。
「お前たちは何者だ」
言葉を継いだのは、低い声の中年だ。ガッチリとしているが背は低い。
「うおっと!」
話が始まりかけた矢先に、防壁を抜けて尖った石が飛んで来た。石は鋭い音を上げて、ハッサンと槍騎兵の間にある地面に突き刺さる。
「話は後だな」
痩せた老槍騎兵が表情を引き締める。中年のほうは、ヒュンと空を切り槍を縦に回転させて身構えた。
「お!魔法が使えるのか」
ハッサンは、中年から魔法の気配を感じた。
「サダ、力を貸せるか?」
サダは青く光って応え、幸運を中年の短槍に載せる。
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