238 エステンデルス平原からの援軍
邪法から逃れた精霊たちが、オルデンを取り囲んで騒いでいる。オルデンから力をもらって回復した精霊たちだ。
「急に現れたんだ」
「そうなんだよ。いきなり川が船でいっぱいになったんだ」
どうやら、ノルデネリエ魔法船団は海から来た訳ではないらしい。
「ごりごりって川底を削って、輝石を根こそぎ浚いながらルフルーヴ川を遡って来たんだよ」
「でも、海からじゃないの」
「突然、パッて現れたんだ」
「魔法だよ」
「すごい魔法だ」
それを聞いてオルデンは眉を寄せる。
「ずいぶん大勢の精霊が使い潰されたんだろうな」
「その通りだ」
「だいぶ消えたよ」
ぐったりとオルデンに寄りかかる精霊たちが、苦しい息で同意した。
「輝石はまだまだ川底にあるし、ハッサンひとりじゃ邪法使いどもを殲滅出来ねえな」
オルデンが悔しそうに言った。いくらハッサンやサルマンが活躍しても、相手は12艘もある魔法船団だ。
「けど、いいこともある」
「何?デン」
「もし輝石が目的なら、隠れ里はバレてねえかも知れねえぜ」
「そうだね、そうだといいな」
ケニスは少しだけホッと緊張を緩めた。
「ねえ、あれは?」
カーラがふと平原を眺めて言った。遠くに眼を転じれば、小さな塊が土煙をあげて近づいて来る。
「邪法の気配はないね?」
ケニスはオルデンに確認した。
「ねえな。邪法どころか魔法の気配がほとんど感じられねえぞ」
「なんだろう?」
「でも、殺気はあるな」
みるみる迫る塊は、どうやら騎馬の一団だ。
「エステンデルス騎馬槍隊だ!」
カワナミと数名の精霊が声を上げて喜ぶ。
「援軍だよ、オルデン!」
しかし、オルデンは厳しい顔のままだった。
「援軍?知り合いもいねえし、俺たちがここで何してるかも分かんねえのに?」
「エステンデルスは、精霊と仲良くないでしょ?」
カーラも不審そうな声を出す。
「そりゃ、イーリスの子シルヴァインの国だけど」
「伝承は捻じ曲がって、今じゃ魔法そのものを敵視してるらしいよなあ」
オルデンも頷く。ノルデネリエとエステンデルスの現状は、カガリビから聞いていた。カガリビは、イーリスとジャイルズの時代から生きてきた精霊だ。
「ちょっと休ませてくれ」
ハッサンが上空まで退避して来た。サダの光も弱まっている。沖風の精霊は、飽きて帰りたそうにしている。
「ねえ、ハッサン、エステンデルスもやって来たみたいなんだけど」
「そりゃ、仲悪い国が、勝手に自分とこの資源を根こそぎ奪ってたらなあ。兵士も来らぁな」
「そうさ!精霊じゃなくたって、こんなに派手な盗掘をしてたら、気づくよ」
カワナミがゲタゲタ笑う。
「仲間じゃないかもしれないけど、援軍っちゃあ援軍なのかな」
「まあ、そうかしらね?ケニー」
連携はならずとも、退ける希望は少しだけ見えた。ハッサンは、岸辺のサルマンに状況を知らせようと降りて行った。
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