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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
238/311

238 エステンデルス平原からの援軍

 邪法から逃れた精霊たちが、オルデンを取り囲んで騒いでいる。オルデンから力をもらって回復した精霊たちだ。


「急に現れたんだ」

「そうなんだよ。いきなり川が船でいっぱいになったんだ」


 どうやら、ノルデネリエ魔法船団は海から来た訳ではないらしい。


「ごりごりって川底を削って、輝石を根こそぎ浚いながらルフルーヴ川を遡って来たんだよ」

「でも、海からじゃないの」

「突然、パッて現れたんだ」

「魔法だよ」

「すごい魔法だ」


 それを聞いてオルデンは眉を寄せる。


「ずいぶん大勢の精霊が使い潰されたんだろうな」

「その通りだ」

「だいぶ消えたよ」


 ぐったりとオルデンに寄りかかる精霊たちが、苦しい息で同意した。



「輝石はまだまだ川底にあるし、ハッサンひとりじゃ邪法使いどもを殲滅出来ねえな」


 オルデンが悔しそうに言った。いくらハッサンやサルマンが活躍しても、相手は12艘もある魔法船団だ。


「けど、いいこともある」

「何?デン」

「もし輝石が目的なら、隠れ里はバレてねえかも知れねえぜ」

「そうだね、そうだといいな」


 ケニスは少しだけホッと緊張を緩めた。



「ねえ、あれは?」


 カーラがふと平原を眺めて言った。遠くに眼を転じれば、小さな塊が土煙をあげて近づいて来る。


「邪法の気配はないね?」


 ケニスはオルデンに確認した。


「ねえな。邪法どころか魔法の気配がほとんど感じられねえぞ」

「なんだろう?」

「でも、殺気はあるな」


 みるみる迫る塊は、どうやら騎馬の一団だ。


「エステンデルス騎馬槍隊だ!」


 カワナミと数名の精霊が声を上げて喜ぶ。


「援軍だよ、オルデン!」



 しかし、オルデンは厳しい顔のままだった。


「援軍?知り合いもいねえし、俺たちがここで何してるかも分かんねえのに?」

「エステンデルスは、精霊と仲良くないでしょ?」


 カーラも不審そうな声を出す。


「そりゃ、イーリスの子シルヴァインの国だけど」

「伝承は捻じ曲がって、今じゃ魔法そのものを敵視してるらしいよなあ」


 オルデンも頷く。ノルデネリエとエステンデルスの現状は、カガリビから聞いていた。カガリビは、イーリスとジャイルズの時代から生きてきた精霊だ。



「ちょっと休ませてくれ」


 ハッサンが上空まで退避して来た。サダの光も弱まっている。沖風の精霊は、飽きて帰りたそうにしている。


「ねえ、ハッサン、エステンデルスもやって来たみたいなんだけど」

「そりゃ、仲悪い国が、勝手に自分とこの資源を根こそぎ奪ってたらなあ。兵士も来らぁな」

「そうさ!精霊じゃなくたって、こんなに派手な盗掘をしてたら、気づくよ」


 カワナミがゲタゲタ笑う。


「仲間じゃないかもしれないけど、援軍っちゃあ援軍なのかな」

「まあ、そうかしらね?ケニー」


 連携はならずとも、退ける希望は少しだけ見えた。ハッサンは、岸辺のサルマンに状況を知らせようと降りて行った。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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