235 いざ開戦
カーラは不躾に笑うカワナミを睨むと、つとケニスに寄り添った。攻撃の準備で剣を構えているため、ケニスは身動きしなかった。だが、ちらりと優しい雰囲気が滲み出した。
「カーラは、目覚めた9年前からずっと成長してるんだ」
ケニスが船団を見据えたまま、カーラを庇う。
「イーリスの子供たちに寄り添って、共に育ち、学び、導くものなんだよ」
カーラは嬉しそうに頬を染める。
「デロンの籠は、普通必要な力を少し借りるだけなんだけど、カーラは目覚めたら大きくなる、ってデロンは言ったんだ」
ケニスは、カーラから聞いたままをカワナミに話す。
「そうよ。何も知らないんじゃないわ。必要な時に学ぶことができるのよ」
精霊は、知識を新しく得ることがある。だが、学び考えて成長することはない。まして、特定の力を道具に貸すだけの契約精霊だ。カワナミは、未だにカーラを不完全で奇妙な精霊だと考えていた。
「カーラは、成長する精霊なんだ」
「ふーん?人間みたい。やっぱりへんな精霊だなー!」
カワナミは大笑いして、オルデンの側へと戻って行った。
少し離れているオルデンの方へ向かうカワナミの背中を、カーラは不機嫌な目付きで見送った。
「それでケニー、なんでサダの光は青いの?」
ふん、と鼻を鳴らすとカーラはケニスに聞く。
「風が助けてくれる幸運なんだって」
「風だけ?」
「うん」
「ケニーは炎だけ?炎が助けてくれないと幸運は呼べないの?」
カーラは不安そうだ。
「安心して、カーラ。ヴォーラの光は白いだろ?」
ケニスはさっとひとつキスをすると、何食わぬ顔で続ける。
「俺は、ご先祖のジャイルズから幸運の力を受け継いでるから、いちばん強いのが炎でも、幸運も剣の精霊にあげられるんだ」
「ちょっと!そんなのどうでもいいわよ!何すんの!」
カーラが憤慨すると、ケニスはカーラを見もしないで笑った。
「ハハハハハ!カーラが聞いたんだろ?」
ヴォーラの光が真っ白く膨れ上がる。カーラの髪と瞳の虹色もぶわりと辺りに広がった。苛立ちの火の粉と喜びの星形をした火の粉とが同時に降る。白い光と反射しあって、空を覆う精霊たちは、雨上がりの岸辺のように輝いた。
「なによ、何すんのよ、もう」
「キスだけどぉー!」
朗らかな少年の笑い声が響く。これから始まる戦いを忘れた風情の気やすさで、ケニスは手にした柄を握り直す。そのままヴォーラを我が身へと引き寄せた。肩のあたりまで戻した切先で、素早く斜めに空を切り裂く。白い光が魔法となって、眼下の船団を狙って駆け下った。
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