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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
235/311

235 いざ開戦

 カーラは不躾に笑うカワナミを睨むと、つとケニスに寄り添った。攻撃の準備で剣を構えているため、ケニスは身動きしなかった。だが、ちらりと優しい雰囲気が滲み出した。


「カーラは、目覚めた9年前からずっと成長してるんだ」


 ケニスが船団を見据えたまま、カーラを庇う。


「イーリスの子供たちに寄り添って、共に育ち、学び、導くものなんだよ」


 カーラは嬉しそうに頬を染める。


「デロンの籠は、普通必要な力を少し借りるだけなんだけど、カーラは目覚めたら大きくなる、ってデロンは言ったんだ」


 ケニスは、カーラから聞いたままをカワナミに話す。



「そうよ。何も知らないんじゃないわ。必要な時に学ぶことができるのよ」


 精霊は、知識を新しく得ることがある。だが、学び考えて成長することはない。まして、特定の力を道具に貸すだけの契約精霊だ。カワナミは、未だにカーラを不完全で奇妙な精霊だと考えていた。


「カーラは、成長する精霊なんだ」

「ふーん?人間みたい。やっぱりへんな精霊だなー!」


 カワナミは大笑いして、オルデンの側へと戻って行った。



 少し離れているオルデンの方へ向かうカワナミの背中を、カーラは不機嫌な目付きで見送った。


「それでケニー、なんでサダの光は青いの?」


 ふん、と鼻を鳴らすとカーラはケニスに聞く。


「風が助けてくれる幸運なんだって」

「風だけ?」

「うん」

「ケニーは炎だけ?炎が助けてくれないと幸運は呼べないの?」


 カーラは不安そうだ。


「安心して、カーラ。ヴォーラの光は白いだろ?」


 ケニスはさっとひとつキスをすると、何食わぬ顔で続ける。


「俺は、ご先祖のジャイルズから幸運の力を受け継いでるから、いちばん強いのが炎でも、幸運も剣の精霊にあげられるんだ」

「ちょっと!そんなのどうでもいいわよ!何すんの!」


 カーラが憤慨すると、ケニスはカーラを見もしないで笑った。


「ハハハハハ!カーラが聞いたんだろ?」


 ヴォーラの光が真っ白く膨れ上がる。カーラの髪と瞳の虹色もぶわりと辺りに広がった。苛立ちの火の粉と喜びの星形をした火の粉とが同時に降る。白い光と反射しあって、空を覆う精霊たちは、雨上がりの岸辺のように輝いた。



「なによ、何すんのよ、もう」

「キスだけどぉー!」


 朗らかな少年の笑い声が響く。これから始まる戦いを忘れた風情の気やすさで、ケニスは手にした柄を握り直す。そのままヴォーラを我が身へと引き寄せた。肩のあたりまで戻した切先で、素早く斜めに空を切り裂く。白い光が魔法となって、眼下の船団を狙って駆け下った。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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