233 幸運の力を載せる
ケニスの構えるヴォーラが、白い光を増してゆく。
「待て、ケニー」
背後からオルデンが声をかけた。
「相手は戦慣れした船団だ」
「デン、まず邪法の道具だけを壊すんだ」
「攻撃されりゃ、一斉に反撃してくるぞ」
オルデンが止める。
「そっちはハッサンやサルマンがなんとかしてくれるわよね?」
カーラの期待は、すぐに否定されてしまう。
「ハッサンは自力で飛びながらじゃすぐに魔法が切れちまうし、サルマンの弓が届く範囲もあっちの船団全体は無理だ」
「じゃあ、どうするの?」
「いまカワナミが精霊を集めてる」
「もうかなり集まってるみたいだわ?」
カーラは、たとえオルデンでもケニスの行動を邪魔したのが気に食わない。
「まだだ。風の連中がハッサンを運んで、サダの力も借りられるまで待て」
「一理あるわね」
カーラは不満ながらも、利点を理解したようだ。
「サルマンの矢も、もしかしたら幸運の力を借りられるかも知れねぇ」
それを聞いて、ケニスはヴォーラへと送る幸運の力を一旦納めた。
「魔法を使えないサルマンの矢に、幸運を載せるくらいの力を?そんなに力を借りて、精霊たちは大丈夫なの?」
ケニスは心配そうに精霊たちを見回した。
「大勢で貸したら大丈夫だよー?」
仲間を集めて戻ったカワナミが、得意そうに笑った。
「まあ、賭けではあるな。けど、精霊たちはサルマンに直接力を貸したり、直に運んだりが出来ねえからな」
「うん。矢の方に風や幸運を加えて助けるのがいちばんいいねー」
道具を壊すのは幸運そのものではない。邪法の道具は隠し持っているのが普通である。不意をついたり、違わず道具に攻撃を当てたりするために、幸運の力を借りるつもりなのだ。反撃されず、いちどきに多くを壊す幸運も期待している。
「デンはどうするの?」
「オルデンの魔法も、道具を壊すのに使ったらいいわ」
「カーラ、みんながおんなじ事にかかり切りになっちゃぁ、上手くねぇぜ」
オルデンの剃り上げた頭が真夏の陽射しにキラリと光る。幻影半島を離れて、頭を覆う布を外したのであった。
「俺は精霊たちが奴等に捕まらないように、サポートするぜ」
「うん!そうしなよー。オルデンなら川の智慧も平原の知識も、大空の囁きも知ることが出来るからねー!オルデン、人間のくせに、ほんと、伝説の精霊王みたいだよねえー!アハハハハ」
「精霊王?」
「カーラ知らないのー?」
カワナミはカーラを馬鹿にして、笑いながら水を飛ばした。カーラは顔をしかめる。
「大昔にな、気ままな精霊たちがこぞって従った、すげぇ精霊がいたんだと。王様みてえだから、精霊王って呼ばれてたのさ」
「オルデンになら、みんな喜んで力を貸すんだよー?精霊の王様みたいだろー?」
「大袈裟だぜ。王様なんて器じゃねぇよ」
オルデンは、頭をつるりと撫でて苦笑いを浮かべた。
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