232 ルフルーヴ川の役(えき)
ルフルーヴ川は、2つの河川が合わさって出来た流れである。ひとつは、城跡のある丘の向こうから流れて来る。遠くの森に水源があるこの川には名前がない。もうひとつは、城跡のある丘の中腹から湧き出す泉が源流となる。この小川にも名前は無い。合流した川になって、ルフルーヴ川と呼ばれるのだ。
川幅は広い。下流では、なお幾つかの支流が集まり大河となる。ルフルーヴ城跡から見渡せる範囲だと、向こう岸がかろうじて見える。荷運びの細長い船ならば、上り下り二艘ずつ横並びにすれ違うことが出来る。
その川を、ノルデネリエの船団が水煙を上げて遡って来た。船首は細く曲線を描いて、精霊龍と呼びならわして来たイーリスの姿を模る。船体を翼のある身体に見立ててずんぐりと造る。魔法で航行するこの戦船には、攻撃的な邪法使いたちが乗り込んでいる。
この船団は魔法船団と呼ばれる、ノルデネリエの海軍組織だ。ノルデネリエは滅多に海へ出ない。精霊大陸北方の氷河を行き来しては、周辺地域を恐怖に陥れてきた。
ケニスとカーラが手を繋いで空をかける。眼下で、魔法船団は恐るべきスピードで城跡の丘に迫っていた。
「ケニー!」
「火炎の御子!」
水を通じて状況を知った精霊たちが集まってきた。顔見知りもいれば、新顔もいる。みな次々とケニスの額に触れてゆく。燃えるような赤い光が、精霊のふれた額から放たれた。
「負けんなよ!」
「力を貸すさ」
「ばか、俺たちがケニーの力を借りんだろ!」
「細けえなあ。どっちだっていいだろ」
わあわあ騒ぎながら、精霊たちはケニスとカーラをとりまく。大きいもの、小さいもの、人型、虫の姿、鳥や動物、石や火に目鼻がついたようなものもいる。普段は自力で移動しないものたちは、水や風の精霊に運ばれて来た。
「船は五艘、いや、離れてもう七艘いるな」
ケニスが船隊を観察し、カーラは人数を数える。
「一艘に10人くらいかしらね?」
すると、ルフルーヴ川の面を疾る川風の精霊がわけ知り顔で口を出す。
「ああいう船にゃ、見えないとこにもっといるもんさ」
「そうなの?海の船より小さいけど、下にいるの?」
「いるんだ」
「でも、せいぜい倍でしょ?」
カーラは自信満々だ。
「ケニー、吹き飛ばしちゃいましょうよ」
「うーん、それだと、利用されてる精霊たちは助けられないよ」
「じゃ、どうするの?」
ケニスはスラリとヴォーラの鞘を払う。剣身は僅かに白い幸運の光を纏っていた。
「イチかバチか」
ケニスはひたと切先をノルデネリエ魔法船団へと向ける。
「精霊を捕らえている邪法の道具を、まず破壊しちゃおう」
ケニスは船団の魔法を調べながら、呼吸を整えて狙いを定める。
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続きます




