231 迎え撃つ
水煙は、見る間に速度を増して近づいてくる。
「なんだってあんな方から船に乗って来たんだ?」
オルデンはしかめっ面で呟いた。ノルデネリエからここまで来るならば、森を抜けるほうが速い。一体どうして川を遡って来たのだろか。
「川から来んなら、一度海に出なくちゃなんねえってのによ」
「えっ、そうなのか?」
幻影半島から来たハッサンとサルマンには、ここ精霊大陸の地理は解らない。ハッサンは船の護衛でマーレニカには来る。だが、それ以外の場所を訪ねてみたことはなかった。
行動を決めかねている人間達に向かって、叢から緑のウサギが飛び出してきた。一行がルフルーヴ城跡に飛ばされて来た時、最初に出会った精霊である。精霊なので、サルマンには見えなかったが。
「なんだ、ウサギ」
ハッサンは、ここへ到着した際にはほとんど気絶していた。緑色の精霊が人の言葉を話せないことを知らない。ウサギは苛立ち紛れに足を踏み鳴らした。
「なんだよ?」
「怒ってるね」
ケニスがウサギ姿の精霊を注意深く観察する。
「早くあの水煙をなんとかして欲しいんじゃないかなあ」
「そうだな、ケニー。放っておいたら、あっという間に攻め込んで来るぞ」
海の上では、海賊などという人迷惑な輩もうろついている。ハッサンは、水上の厄介者たちが駆る船足の速さも荒々しさも知っていた。
「まさか、マーレニカがギィの勢力に呑み込まれたんじゃねえよな?」
ハッサンは不安そうにオルデンを見た。ケニスも緊張を高めている。ギィと戦ったとはいえ、本物の戦は初めてだ。どんなことが起こるのか、皆目見当もつかない。
「ちょっと!速すぎない?」
「精霊だね、カーラ。無理な力を出してる」
「邪法なのね?ケニー」
「邪法だね、カーラ」
恐ろしい速さで近づく水煙は、幅広いルフルーヴ川いっぱいに広がっている。今や、船影すら眼で追うことが出来た。
「カーラ、行こう!」
ケニスはカーラの手を引いて、丘の上から飛翔した。その背中へとオルデンが叱る。
「おいっ、ケニー!うかつに飛び出すな!」
ケニスはチラリと振り返り、キッとオルデンを睨んだ。
「ここに居たって、やられるだけなんだろ?」
「やられるまで、黙って立ってるよりは数段いいわ!」
2人は手をしっかりと繋ぎ合わせて、空の道を走り出す。
「ちっ、カワナミ!ルフルーヴ川の精霊たちはどうなってる?」
オルデンは状況を確認しながら、逸るケニスたちを追う。
「どうって!アハハ」
カワナミは、現れるなり大笑いをした。
「こっちに来てくれそうか?」
「呼びたいんだねー?」
「呼びたい」
オルデンは、少し言いにくそうにカワナミに答えた。
「出来ることなら、精霊を集めて迎え撃つほうが、まだ勝算はある」
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