230 ルフルーヴ川の水煙
ケニスはサルマンの男気に感謝して、白い歯を覗かせた。
「下っ端の邪法使いたちや、邪法の道具も作れないで持たされているだけの魔法使いたちなら、普通の武器も効くね」
サルマンは黙って頷く。
「そういうことなら、よろしくな」
ハッサンも納得した。
「無理はすんなよ?」
「ああ」
オルデンも同意して、正式にサルマンの同行が決まった。
サルマンの助太刀が受け入れられ、ケニスたちは南の砂漠に向かうことになった。
「せいぜい捕まらないようにね」
青い花の精霊が、カーラに憎まれ口をきく。小さいので、年長者の肩の上に立っている。
「あんたもね」
カーラもキツイ口調で返答した。
「気をつけてね」
すっかり母親気分になった話し手のおばさんが、ケニスとカーラに薬草袋を持たせてくれた。
「気休め程度だけど、疲れがよく取れるお茶と、血止めの薬草、それからお腹痛い時の丸薬、あとは木の実を練った保存食よ。甘いのよ」
おばさんのニコニコ顔に、ケニスはすっかり胸が温かくなった。
「たくさん、ありがとう」
嬉しそうなケニスを見て、カーラもおばさんが好きになる。カーラは、イーリスの子供たちが幸せになれるものが好きなのだ。
「呪い、解くわよ。任せておいて」
「ふふ。頼もしいわね」
「それじゃ」
「ええ。気をつけてね」
来た時と同じように、青い花の精霊が先に立って通路を進む。沖風の精霊は、ハッサンの顔色が戻ってきたのを見て飛び去った。精霊なので、壁も天井も関係がない。
「あれ、何かしら?」
外に出た時、ルフルーヴ川の下流から、霧のようなものが遡ってくるのが見えた。それはどんどん近づいてくる。
「何かしら」
カーラの疑問に、青い花の精霊も首を傾げて眼を凝らす。
「大変だ!」
カワナミが虚空から飛び出して騒ぐ。
「ノルデネリエの魔法船団だよ!舳先がルフルーヴ川の水を分けて跳ね返すから、水煙になっちゃってるよ!」
カワナミは、やっぱり大笑いをして飛沫を散らしていた。
「もう来たの?」
「今やり過ごしたら、隠れ里が危ねえな」
ケニスが腰のヴォーラをぐっと握る。オルデンは腕を組んで唸った。
「けどよ、オルデン。4人でアレを迎え撃つのは無謀ってもんだぜ」
だいぶ調子を取り戻したハッサンが呆れる。
「どう見ても戦船の進軍だぜ、ありゃあ」
ハッサンの言葉に、港の男サルマンも無言で頷いた。
「けど、隠れ里を襲わせるわけにはいかないよ!」
ケニスが叫ぶ。
「カワナミ、ここを守れる精霊はいないの?」
「逃げて隠れる連中だよー?アハハ、今からじゃ、隠れ里に知らせても、逃げる暇なんてないけどー!」
「カワナミ!」
ケニスが怒った。どうせ精霊には、何故怒られたのかは解らない。だが、ケニスに嫌われたくはないので、カワナミは不服そうに口を閉じた。
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