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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
230/311

230 ルフルーヴ川の水煙

 ケニスはサルマンの男気に感謝して、白い歯を覗かせた。


「下っ端の邪法使いたちや、邪法の道具も作れないで持たされているだけの魔法使いたちなら、普通の武器も効くね」


 サルマンは黙って頷く。


「そういうことなら、よろしくな」


 ハッサンも納得した。


「無理はすんなよ?」

「ああ」


 オルデンも同意して、正式にサルマンの同行が決まった。



 サルマンの助太刀が受け入れられ、ケニスたちは南の砂漠に向かうことになった。


「せいぜい捕まらないようにね」


 青い花の精霊が、カーラに憎まれ口をきく。小さいので、年長者の肩の上に立っている。


「あんたもね」


 カーラもキツイ口調で返答した。



「気をつけてね」


 すっかり母親気分になった話し手のおばさんが、ケニスとカーラに薬草袋を持たせてくれた。


「気休め程度だけど、疲れがよく取れるお茶と、血止めの薬草、それからお腹痛い時の丸薬、あとは木の実を練った保存食よ。甘いのよ」


 おばさんのニコニコ顔に、ケニスはすっかり胸が温かくなった。


「たくさん、ありがとう」


 嬉しそうなケニスを見て、カーラもおばさんが好きになる。カーラは、イーリスの子供たちが幸せになれるものが好きなのだ。


「呪い、解くわよ。任せておいて」

「ふふ。頼もしいわね」

「それじゃ」

「ええ。気をつけてね」



 来た時と同じように、青い花の精霊が先に立って通路を進む。沖風の精霊は、ハッサンの顔色が戻ってきたのを見て飛び去った。精霊なので、壁も天井も関係がない。


「あれ、何かしら?」


 外に出た時、ルフルーヴ川の下流から、霧のようなものが遡ってくるのが見えた。それはどんどん近づいてくる。


「何かしら」


 カーラの疑問に、青い花の精霊も首を傾げて眼を凝らす。


「大変だ!」


 カワナミが虚空から飛び出して騒ぐ。


「ノルデネリエの魔法船団だよ!舳先がルフルーヴ川の水を分けて跳ね返すから、水煙になっちゃってるよ!」


 カワナミは、やっぱり大笑いをして飛沫を散らしていた。



「もう来たの?」

「今やり過ごしたら、隠れ里が危ねえな」


 ケニスが腰のヴォーラをぐっと握る。オルデンは腕を組んで唸った。


「けどよ、オルデン。4人でアレを迎え撃つのは無謀ってもんだぜ」


 だいぶ調子を取り戻したハッサンが呆れる。


「どう見ても戦船(いくさぶね)の進軍だぜ、ありゃあ」


 ハッサンの言葉に、港の男サルマンも無言で頷いた。


「けど、隠れ里を襲わせるわけにはいかないよ!」


 ケニスが叫ぶ。


「カワナミ、ここを守れる精霊はいないの?」

「逃げて隠れる連中だよー?アハハ、今からじゃ、隠れ里に知らせても、逃げる暇なんてないけどー!」

「カワナミ!」


 ケニスが怒った。どうせ精霊には、何故怒られたのかは解らない。だが、ケニスに嫌われたくはないので、カワナミは不服そうに口を閉じた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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