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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第一章 国境の森
23/311

23 精霊龍の物語

 ケニスは木苺をもぐもぐしながらオルデンに訊く。


「なんで精霊だってバレちゃダメなの?」

「すっかり人の姿になってる精霊なんて他にいないだろ?」

「うん」


 精霊は、形が人間に似ていても水や土で作られた人形のような姿である。皮膚にあたる場所も水だったり火だったりする。人の肌とは違うのだ。



「人間はな、珍しいもんをすぐどうにかしたがんだよ」

「どうにか?」


 カーラは木苺を自分でぷちんと()んでみる。


「だいたいは金に変えようとするかな」

「かね?」

「食いながら話すか。まず食い物集めちまおう」

「長い話?」

「ああ。森から出る為の話だ」

「ふうん?」


 カーラも興味を示す。


「人の世のこと、精霊と人間のこと、ノルデネリエのこと、知らねぇまんまで森から離れるなぁ、危ねぇからな」


 ケニスとカーラはそれを聞いて、真剣に食べ物や焚き付けを集めた。



 川辺に戻ったオルデンたちは、削った枝で魚を串打ちして焚き火で焼く。森の恵みは大きな葉っぱに乗せる。今日は、全て生でも食べられる物を選んで来たようだ。


 魚が焼ける間に、オルデンは森の外の常識を語る。


「森の外には、人間がたくさんいる」

「へえー」


 ケニスが虹色の瞳を煌めかせる。


「だがな、ケニーやカーラみてぇな虹色の眼をした人間はまず居ねぇ。」

「ええっ!」


 これにはケニスもカーラも驚いた。


「その目はケニスの先祖の精霊と同じだ」

「精霊の目なの?」

「そういうこった」



 オルデンは食べられる草を刻んで、沢の水と一緒に火にかける。


「ノルデネリエの最初の王様は、精霊龍って呼ばれる龍の精霊と人間の間の子供だった」

「そうよ!」


 カーラは胸を張る。


「精霊龍は龍の吐いた炎から生まれたの」

「へえ!」


 ケニスは感心してカーラを見る。


「その話なら知ってるぜ!」


 焚き火から飛び出して来たカガリビが、オルデンの話を引き取った。



 ※


 昔、西の山には賢い龍が住んでいた。龍は麓の村の人々に智慧を授けて、仲良く暮らしていた。


 ある日のこと、山の反対側から見慣れない人間がやってきた。


「ほっほう!こいつぁ食い出がありそうだぜ。覚悟しな、デカブツ!」


 その人間はたいへんに無礼な若者だった。銀の髪を短く刈り込み、琥珀色の瞳には傲岸不遜な色が見えた。秀でた額と高い鼻が、自我の強さを表している。ガッチリとした体格は、西の漁村に住む漁師たちより大柄だった。


「人の子よ、私を喰らう気なのかね?」


 賢い龍は、無礼な若者に尋ねた。


「なんだ、話が出来んのか?」


 若者は驚いて、構えていた剣を下ろした。眼は油断なく龍を睨む。



「喰らうのは止めたか?」


 賢い龍は無礼な若者に向かって、揶揄うように言った。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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