23 精霊龍の物語
ケニスは木苺をもぐもぐしながらオルデンに訊く。
「なんで精霊だってバレちゃダメなの?」
「すっかり人の姿になってる精霊なんて他にいないだろ?」
「うん」
精霊は、形が人間に似ていても水や土で作られた人形のような姿である。皮膚にあたる場所も水だったり火だったりする。人の肌とは違うのだ。
「人間はな、珍しいもんをすぐどうにかしたがんだよ」
「どうにか?」
カーラは木苺を自分でぷちんと摘んでみる。
「だいたいは金に変えようとするかな」
「かね?」
「食いながら話すか。まず食い物集めちまおう」
「長い話?」
「ああ。森から出る為の話だ」
「ふうん?」
カーラも興味を示す。
「人の世のこと、精霊と人間のこと、ノルデネリエのこと、知らねぇまんまで森から離れるなぁ、危ねぇからな」
ケニスとカーラはそれを聞いて、真剣に食べ物や焚き付けを集めた。
川辺に戻ったオルデンたちは、削った枝で魚を串打ちして焚き火で焼く。森の恵みは大きな葉っぱに乗せる。今日は、全て生でも食べられる物を選んで来たようだ。
魚が焼ける間に、オルデンは森の外の常識を語る。
「森の外には、人間がたくさんいる」
「へえー」
ケニスが虹色の瞳を煌めかせる。
「だがな、ケニーやカーラみてぇな虹色の眼をした人間はまず居ねぇ。」
「ええっ!」
これにはケニスもカーラも驚いた。
「その目はケニスの先祖の精霊と同じだ」
「精霊の目なの?」
「そういうこった」
オルデンは食べられる草を刻んで、沢の水と一緒に火にかける。
「ノルデネリエの最初の王様は、精霊龍って呼ばれる龍の精霊と人間の間の子供だった」
「そうよ!」
カーラは胸を張る。
「精霊龍は龍の吐いた炎から生まれたの」
「へえ!」
ケニスは感心してカーラを見る。
「その話なら知ってるぜ!」
焚き火から飛び出して来たカガリビが、オルデンの話を引き取った。
※
昔、西の山には賢い龍が住んでいた。龍は麓の村の人々に智慧を授けて、仲良く暮らしていた。
ある日のこと、山の反対側から見慣れない人間がやってきた。
「ほっほう!こいつぁ食い出がありそうだぜ。覚悟しな、デカブツ!」
その人間はたいへんに無礼な若者だった。銀の髪を短く刈り込み、琥珀色の瞳には傲岸不遜な色が見えた。秀でた額と高い鼻が、自我の強さを表している。ガッチリとした体格は、西の漁村に住む漁師たちより大柄だった。
「人の子よ、私を喰らう気なのかね?」
賢い龍は、無礼な若者に尋ねた。
「なんだ、話が出来んのか?」
若者は驚いて、構えていた剣を下ろした。眼は油断なく龍を睨む。
「喰らうのは止めたか?」
賢い龍は無礼な若者に向かって、揶揄うように言った。
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