229 南の砂漠に向かう
別の作品にこの最新部分が投稿されており、たいへん失礼いたしました。連日申し訳なく存じます。
地下に住む隠れ里の人は、ギィから隠れる以外に不自由せず暮らしているようであった。ギィや砂漠の魔女への恐怖はあるので、やや排他的ではある。しかし、排斥された怨みよりもここで穏やかに暮らせるよう工夫する楽しみが強いようなのだ。
話してみれば打ち解けるし、頭ごなしに否定したりもしない。ケニスは確かにノルデネリエ直系王族の特徴を備えている。いわばこの里の敵の姿をしているのだ。それでも、警戒しながら冷静に観察していた。
忍耐強く何世代も隠れおおせて来た人々なのである。新しい被害者を常に受け入れる柔軟性もある。多くの人が精霊と合流していることも、閉鎖的になり切らなかった理由なのだろう。精霊は、偏りがあるとはいえ、外の世界で起きていることを知らせに来てくれる。
「先ずはサルマンが帰れるように、マーレニカ港に行かねぇとな」
オルデンがもっともな事を指摘した。しかしサルマンは、微かに表情を硬くする。
「ん?何か不満でもあんのかよ?サルマン」
ハッサンの声には、まだ力がない。ハッサンに供された薬湯は、少し濃いようだ。香りが強かった。隠れ里の人々の気遣いである。
「乗りかかった船だ。助太刀するぜ」
口をもごもごさせ、サルマンはやや早口に申し出た。
「けどよ、サルマン。お前さんは魔法が使えないし、精霊も見えないだろ?」
ハッサンが不審がる。サルマンは太い眉を少しだけ上げた。
「ふん、聞いたぞ?邪法の道具は普通の武器でも壊せるんだってな?」
砂漠の悪鬼に挑む時、サルマンは簡単に一行の来歴を説明されていた。そうでなければ、幼さの残る少年少女と共に危険な悪鬼に立ち向かうことは無かった。ケニスとカーラが普通の子供であったなら、無謀としか言いようが無いからだ。
「俺でも出来る」
サルマンは厳しい顔の中でギラリと眼を光らせた。そして、背中に担いだままの大弓を軽くトンと叩いた。魔法も精霊も縁遠くはあるが、サルマンは普通の男でもないのだ。
「サルマン、凄かったわね」
カーラが思い出す。
「うん。すごい速さで弓を放ってた」
ケニスが眼をキラキラさせた。
「その大弓、引くの大変でしょう?」
「いや」
「普通の人には無理だわ」
サルマンの眼にチラリと好奇心の色が浮かぶ。警戒と関心が混ざっていた。華奢な少女が知っていることにしては、多少不審感がある。
「ふふん、色々知ってんのよ、あたしは」
サルマンは黙って頷いた。何をどう納得したのかは分からない。だが、双方それ以上の問答はしなかった。サルマンはカーラの知識と観察力を評価した。カーラの側ではサルマンを戦力として受け入れた。
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続きます




