227 家族
目が覚めたら知らない部屋で、初めて合う人々を前にしていたのである。ハッサンが戸惑うのも無理はない。
「ギィが俺を引き寄せようとしたらしくて、みんなをまた巻き込んじゃったんだ」
ケニスが肩を落とす。カーラはぎゅっと手を握り、オルデンは背中をさすってやる。ハッサンは、軽い調子で励ました。
「あのまんま砂漠にいたって、悪鬼どもにやられてたかも知れねぇし、ここは見たとこギィの野郎とは関係なさそうじゃねえか」
「ハッサン師匠、ここはギィの被害者が隠れて住んでるところなんだって」
「へえ。そしたら、ギィを早くやっつけなきゃな!こんなに沢山の人が隠れてなきゃいけねぇなんて」
ハッサンは、やや青ざめた顔に歯を見せてニッと笑った。
「南の砂漠から来たひとは、他にもいる?」
ケニスは広いテーブルを見渡して尋ねた。南の砂漠に住む人は、ギィというより砂漠の魔女の被害者である。それがなぜ、この隠れ里に住んでいるのだろうか。
「私だけなの」
話し手は言った。
「子供の頃に、村に行商人が来てね。魔法の才能があるから、ノルデネリエに行かないか、って誘われたのよ」
「えっ、良く逃げられたね!」
ノルデネリエの魔法使いたちに目をつけられたら、望むかどうかなど問題にはされない。
「家族も説得されちゃったんだけど、国境の森で、精霊たちが助けてくれたのよ」
「なかなかに良い力を持ってるな」
沖風の精霊が口を挟んだ。
「精霊に気に入られるのも無理はない」
「ふふ、ありがとう」
話し手はにこりとした。
「家族の元に帰ったら、またノルデネリエから誘いが来るし、ここで隠して貰うことになったの」
「そうだったのか」
ケニスは、気の毒そうに言った。
「ご家族と会えないのは辛いだろうが、まずは生き延びねぇとなあ」
ハッサンも同情の言葉を述べた。話し手の女性は、穏やかに頷く。
「ええ。ここに来たのは子供の時だから、家族の顔もぼんやりして来ちゃって」
ケニスには、肉親の情は分からない。赤ん坊の身で森に捨てられたからだ。だが、オルデンもいるし、カーラもハッサンもいる。共に暮らした大切な人の顔が、ぼんやりと曖昧になってしまうとは。考えただけでもぞっとした。
「もう私がこんな歳だもの。両親や祖父たちは、まだ生きているかどうかも分からないしね」
女性は中年である。その両親や祖父母ならもっと歳が行っているだろう。
「ギィと砂漠の魔女は、必ず俺たちが消してやる!もう、そんな思いをする人たちが出てこないように」
ケニスは、キリリと表情を引き締めた。
お読みくださりありがとうございます
続きます




