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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
227/311

227 家族

 目が覚めたら知らない部屋で、初めて合う人々を前にしていたのである。ハッサンが戸惑うのも無理はない。


「ギィが俺を引き寄せようとしたらしくて、みんなをまた巻き込んじゃったんだ」


 ケニスが肩を落とす。カーラはぎゅっと手を握り、オルデンは背中をさすってやる。ハッサンは、軽い調子で励ました。


「あのまんま砂漠にいたって、悪鬼どもにやられてたかも知れねぇし、ここは見たとこギィの野郎とは関係なさそうじゃねえか」

「ハッサン師匠、ここはギィの被害者が隠れて住んでるところなんだって」

「へえ。そしたら、ギィを早くやっつけなきゃな!こんなに沢山の人が隠れてなきゃいけねぇなんて」


 ハッサンは、やや青ざめた顔に歯を見せてニッと笑った。



「南の砂漠から来たひとは、他にもいる?」


 ケニスは広いテーブルを見渡して尋ねた。南の砂漠に住む人は、ギィというより砂漠の魔女の被害者である。それがなぜ、この隠れ里に住んでいるのだろうか。


「私だけなの」


 話し手は言った。


「子供の頃に、村に行商人が来てね。魔法の才能があるから、ノルデネリエに行かないか、って誘われたのよ」

「えっ、良く逃げられたね!」


 ノルデネリエの魔法使いたちに目をつけられたら、望むかどうかなど問題にはされない。


「家族も説得されちゃったんだけど、国境の森で、精霊たちが助けてくれたのよ」



「なかなかに良い力を持ってるな」


 沖風の精霊が口を挟んだ。


「精霊に気に入られるのも無理はない」

「ふふ、ありがとう」


 話し手はにこりとした。


「家族の元に帰ったら、またノルデネリエから誘いが来るし、ここで隠して貰うことになったの」

「そうだったのか」


 ケニスは、気の毒そうに言った。


「ご家族と会えないのは辛いだろうが、まずは生き延びねぇとなあ」


 ハッサンも同情の言葉を述べた。話し手の女性は、穏やかに頷く。


「ええ。ここに来たのは子供の時だから、家族の顔もぼんやりして来ちゃって」



 ケニスには、肉親の情は分からない。赤ん坊の身で森に捨てられたからだ。だが、オルデンもいるし、カーラもハッサンもいる。共に暮らした大切な人の顔が、ぼんやりと曖昧になってしまうとは。考えただけでもぞっとした。



「もう私がこんな歳だもの。両親や祖父たちは、まだ生きているかどうかも分からないしね」


 女性は中年である。その両親や祖父母ならもっと歳が行っているだろう。


「ギィと砂漠の魔女は、必ず俺たちが消してやる!もう、そんな思いをする人たちが出てこないように」


 ケニスは、キリリと表情を引き締めた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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