226 砂漠と精霊の歌
小説家になろうが2023/2/4 1:00-19:00ごろまでメンテナンスとのことですので、変則的にいま更新しました
ケニスがさらりとキスを落とした唇を、カーラは咄嗟に両手で隠す。
「もうっ!何すんのよっ!ケニー」
「キスだけど?」
もう何回繰り返されただろうか。このやり取りを微笑ましく眺めながら、オルデンはシャキアを思い出す。
(ギィの件が済んだら、会いに行ってみるか)
オルデンなら、風の精霊や魔法の力で、簡単にマーレン大洋を越えられる。1週間前後かかるが、時を選ばず、幻影半島まで訪ねて行けるのであった。
(俺のこと、覚えていてくれるかなあ)
手を繋ぎ肩を寄せ合う少年少女は、南の砂漠に伝わる魔女の歌を待っている。仲睦まじく時折互いに盗み見ている。オルデンとシャキアは、ようやく頬を寄せ合う程度の間柄にはなっていた。ゆっくりゆっくり近づいて、これからという時、ギィがやって来たのだ。
(なんにせよ、巻き込んじまったし、顛末を伝えにゃならねぇな)
オルデンがひとり心に決めていると、ようやく歌が披露された。話し手の女性は穏やかな語り口だったが、歌はどこか力強い。里謡特有の哀愁を帯びつつも明るさを込めた、心に染みる歌だった。郷愁を誘う単純な旋律で、短い言葉を数回繰り返す。
どこどこどこに 隠したの
心臓心臓 隠したの
砂漠砂漠よ 隠したの
南の南の 隠したの
隠したの 隠したの
砂漠砂漠は どこですか
隠した隠した どこですか
どこですか どこですか どこですか
誰も知らない砂の下
砂の知らない空の下
「まじない言葉の繰り返しはね。南の砂漠では昔、力を持つと言われていたのよ」
歌い納めて話し手が言った。
「その歌には、何の力が込められているの?」
ケニスは少し怖そうに聞いた。
「分からないわ。魔女を復活させないように閉じ込める歌だとか、反対に、魔女の手下が探しに来た時の歌だとか、色々言われているけれどもね」
伝承はここでも曖昧だ。それも仕方の無いことだった。古い昔の出来事は、正しく伝わるほうが珍しいものである。
「砂の知らない空の下?」
カーラが眉間に皺を寄せる。
「砂漠の地下水道じゃねえのか?」
背後から声がした。
「ハッサン!」
「大丈夫なのか?」
「師匠」
3人は勢いよく振り向いて、サルマンも首を後ろへと向けた。まだ顔色はすぐれないが、砂漠の港で生まれた海の男が立っていた。
「まあ、だいたい大丈夫だ」
強がり笑顔でハッサンが片手を上げた。
「それよりサルマンは?悪鬼にやられかけてただろ?」
ハッサンは心配そうに尋ねた。
「大丈夫だ」
サルマンは少ない口の動きで答えた。
「そうか?なら良かった」
「悪鬼、どうなっちゃったのかな」
ケニスが、不安を滲ませた。
「少なくとも、付いてきてないな」
ハッサンは辺りを見回して言った。
「向こうでまだ悪さしてんのかな?」
ケニスの疑問には答えず、ハッサンはキョロキョロしながらこう言った。
「ここ、何処なんだ?」
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2023/2/5 の更新からまた、通常通り朝の6時に最新話投稿です
続きます




