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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
226/311

226 砂漠と精霊の歌

小説家になろうが2023/2/4 1:00-19:00ごろまでメンテナンスとのことですので、変則的にいま更新しました




 ケニスがさらりとキスを落とした唇を、カーラは咄嗟に両手で隠す。


「もうっ!何すんのよっ!ケニー」

「キスだけど?」


 もう何回繰り返されただろうか。このやり取りを微笑ましく眺めながら、オルデンはシャキアを思い出す。


(ギィの件が済んだら、会いに行ってみるか)



 オルデンなら、風の精霊や魔法の力で、簡単にマーレン大洋を越えられる。1週間前後かかるが、時を選ばず、幻影半島まで訪ねて行けるのであった。


(俺のこと、覚えていてくれるかなあ)


 手を繋ぎ肩を寄せ合う少年少女は、南の砂漠に伝わる魔女の歌を待っている。仲睦まじく時折互いに盗み見ている。オルデンとシャキアは、ようやく頬を寄せ合う程度の間柄にはなっていた。ゆっくりゆっくり近づいて、これからという時、ギィがやって来たのだ。


(なんにせよ、巻き込んじまったし、顛末を伝えにゃならねぇな)


 オルデンがひとり心に決めていると、ようやく歌が披露された。話し手の女性は穏やかな語り口だったが、歌はどこか力強い。里謡特有の哀愁を帯びつつも明るさを込めた、心に染みる歌だった。郷愁を誘う単純な旋律で、短い言葉を数回繰り返す。



 どこどこどこに 隠したの

 心臓心臓 隠したの

 砂漠砂漠よ 隠したの

 南の南の 隠したの

 隠したの 隠したの


 砂漠砂漠は どこですか

 隠した隠した どこですか

 どこですか どこですか どこですか

 誰も知らない砂の下

 砂の知らない空の下



「まじない言葉の繰り返しはね。南の砂漠では昔、力を持つと言われていたのよ」


 歌い納めて話し手が言った。


「その歌には、何の力が込められているの?」


 ケニスは少し怖そうに聞いた。


「分からないわ。魔女を復活させないように閉じ込める歌だとか、反対に、魔女の手下が探しに来た時の歌だとか、色々言われているけれどもね」


 伝承はここでも曖昧だ。それも仕方の無いことだった。古い昔の出来事は、正しく伝わるほうが珍しいものである。



「砂の知らない空の下?」


 カーラが眉間に皺を寄せる。


「砂漠の地下水道じゃねえのか?」


 背後から声がした。


「ハッサン!」

「大丈夫なのか?」

「師匠」


 3人は勢いよく振り向いて、サルマンも首を後ろへと向けた。まだ顔色はすぐれないが、砂漠の港で生まれた海の男が立っていた。


「まあ、だいたい大丈夫だ」


 強がり笑顔でハッサンが片手を上げた。



「それよりサルマンは?悪鬼にやられかけてただろ?」


 ハッサンは心配そうに尋ねた。


「大丈夫だ」


 サルマンは少ない口の動きで答えた。


「そうか?なら良かった」

「悪鬼、どうなっちゃったのかな」


 ケニスが、不安を滲ませた。


「少なくとも、付いてきてないな」


 ハッサンは辺りを見回して言った。


「向こうでまだ悪さしてんのかな?」


 ケニスの疑問には答えず、ハッサンはキョロキョロしながらこう言った。


「ここ、何処なんだ?」


お読みくださりありがとうございます

2023/2/5 の更新からまた、通常通り朝の6時に最新話投稿です


続きます

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