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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
224/311

224 砂漠の伝承

 ケニスは、ふと思い付いて話し手の女性に問う。


「魔女の心臓がどんな形なのか、何か伝わってない?」

「心臓の、かたち……?」


 話し手は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。


「たとえばギィの心臓は、文字の形で引き継がれてきたんだ」

「古文書があるのね?」


 まさか生身の人間を器として、精霊をそこに留める邪法の文字そのものを心臓に変えるなどということが、普通の人間に解る筈もない。話し手は、ごく常識的な受け取り方をした。



「違う、違う」

「違うの?」


 ケニスは慌てて否定する。


「違う。文字が心臓なんだ」

「文字が心臓なの?」


 理解できずに、話し手はおうむ返しに言った。


「そう。俺の額にも、古代精霊文字があったんだ。生まれた時から、あった」

「それはどういうことなの?」


 話し手は、ますます分からなくなってしまった。


「ギィの邪法なんだ」

「邪法なのね」

「ギィのだ。ギィは知ってるでしょう?」

「ええ。始まりの双子のうち、悪い魔女と組んだ奴ね」


 砂漠では、イーリスの子孫たちよりも真実に近い伝承があるようだ。直接には双子と関わりが無かったことが、却って正しい歴史を今日まで伝えたのかも知れない。



「うん。だいたいあってる」


 ケニスは頷く。


「精霊を邪法で閉じ込める時には、砂漠の人たちが道具に書くみたいに、閉じ込める道具に文字を書くんだ」

「古代精霊文字ね?」

「そう。それを、ギィは、肉体を滅ぼされた時に、奥さんのお腹にいた赤ちゃんにやったんだよ」


 テーブルの周りに座る隠れ里の民が、皆一様に息を呑む。あたりはシンと静まり返った。先程までコソコソと耳打ちをしあっていた人々が、口をつぐんでケニスに注目した。



「自分と同じ、イーリスの血を継ぐ人間に、精霊を呼び寄せる時の印を、邪法の力でつけるんだ」

「あなたの額には見えないけれど?」

「ケニーは、消し去ったのよ!」


 カーラが自慢する。


「それじゃ、ギィは、もういなくなった?」


 話し手は、期待を込めて聞いた。


「残念ながら、まだ1人だけ、器がいたんだ」

「乗り移ると、目印だった古代精霊文字が、ギィの心臓になるのよ」

「予想なんだけどね」


 ケニスが困ったように眉を下げる。確証は無いのだ。ケニスの額にあった火炎を表す文字を消せば、終わりかと思っていた。しかし、そうではなかった。



「砂漠では、魔女の心臓について、どんな話があるの?」


 ケニスは改めて聞く。魚の姿をした精霊は、いつの間にやら消えていた。用は済んだとばかりに、フイと帰ってしまったのであった。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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