223 砂漠の魔女の心臓と呪い
砂漠の民は、生活道具に古代精霊文字を書く。書くのは、手伝って欲しい内容を現す文字だ。かつては、水瓶に水を意味する文字を書けば、水の精霊が来てくれた。竈に火を意味する文字を刻めば、火の精霊が現れた。
「今でも私たちは、また精霊と仲良くなりたくてお礼を色々用意しながら、道具に文字を書いておくのよ」
「呪いっていうのは?カワナミたちが信じてくれないだけ?」
「酷いやケニー!ハハハ」
「カワナミ、笑ってないで、知ってることがあるなら教えてよ」
「魔女の気配が漂ってんだー!砂漠は広いのにさ。ひろーい砂漠全体になんだよー!」
カワナミがおかしそうに目を閉じて笑う。話し手の女性は、怖そうに肩を震わせた。
「魔女の心臓が砂漠のどこかにあるんですって」
「うん、知ってるー!」
「そこから悪い魔法の力が少しずつ漏れて、いつの間にか砂漠全体を覆ってしまったのですって」
「それを呪い、って言うのね?」
「そうなのよ」
女性は一口薬湯を飲むと、話を続けた。
「魔女の心臓を消し去る望みが予言の中にあると信じて、私たち砂漠の民は、この予言を代々伝えて来たのよ」
「デン」
ケニスがオルデンのほうを見た。
「なんだ?ケニー」
「魔女の呪い、ヴォーラで消せるかな」
「試す価値はあるな」
「手立てがあるの?」
話し手は、期待を込めて聞く。
「わからない。でも、出来るかも」
ケニスの瞳が虹色に燃えた。カーラのランタンが呼応する。虹色の炎がチラチラと揺れて、ケニスの頬を染める。ケニスたちの前に置かれている薄緑色の薬湯も、虹色の光を反射した。
「砂漠の魔女が心臓を隠したのは、国境にある森の南に広がる砂漠、ってことしか分からないのよね?」
カーラが話し手に訊ねる。話し手の女性は残念そうに肯首した。
「ええ。分からないの」
「どこにあるのか分からない物を見つけるのって、幸運だろ?」
ケニスはカーラに向かって得意そうに言った。軽くヴォーラの柄頭を掌で叩く。その手もずいぶんと大きくなった。大人の剣士には到底届かないが、しっかりと骨が張り関節も柔らかだ。子供らしいふくふくしさは、最早少しも見えない。
「ええ、そうね、ケニー。きっと幸運の力でありかを見つけて、消し去ることが出来るわね」
カーラは同意した。テーブルに居並ぶ人は皆、ケニスとカーラの会話の行く末を見守っている。
「そうさ。額にあったギィの邪法の文字だって、消し去ることができただろ?」
「そうよ。出来たわ!」
カーラは思わずぎゅっと拳を握る。虹色の瞳はケニスを誇らしく思う気持ちで輝いた。
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