222 魔女のふるさと
逃げ腰の里人を怯えさせないように、オルデンは穏やかな態度を心掛ける。
「今は、とにかく情報が欲しい」
オルデンが言うと、ケニスは真剣な眼差しで里人に尋ねた。
「何でもいいから、教えて」
「お願いするわ」
カーラも頭を下げた。とうやら、その話はケニスが幸せになるものらしい。カーラが興味を示すことは、イーリスの子供たちが幸せになることなのだから。
それでもしばらくはあちこちに眼を向けては、誰にともなく助けを求めていた。里の皆は、隠れなくて良くなるかもしれないという希望に縋りたかった。
どの人も、ノルデネリエからもエステンデルスからも命を狙われている。直接の危険を体験したのはもう数世代前の人もいる。だが、今でも新たな避難者はやって来るのだ。里人から恐怖は消えていない。
「話してみて?」
年長者の女性が促した。仕方ない、という風情で注目された中年女性は重い口を開いた。
「ここに来る前いた場所で、その予言を聞いたことがあります」
「もしかして、解釈も?」
オルデンが慎重に聞く。中年女性はかぶりを振った。
「いいえ。でも、その予言が成就する時、私たちの呪いも解けるって」
「呪い?」
カーラが声を硬くした。中年女性はヒッと震え上がる。オルデンが口を曲げてカーラを嗜めた。プイと横を向くカーラの手を優しく握るケニスは、話の続きを聞きたがる。
「どんな呪いなんですか?」
予言と関係がある以上、ギィやノルデネリエと関わりのある呪いに違いない。
中年女性は少年少女をじっと見る。それから、ふと悲しそうに眉を下げた。
「予言を成就するのが、こんな子供たちだったとはねぇ」
ふっ、と息を吐き出す。そして、今までの怯えを消し去った。ふんわりと柔らかな眼差しは、母という経験から来るものなのだろう。母を知らないオルデン、ケニス、カーラには、何だかとてもむず痒いような心地がした。
その後は、するすると話が口から流れ出した。
「私は、南の砂漠に住んでおりました」
「魔女のふるさとだね?」
ケニスが思わず話を遮ると、女性はにこやかに頷いた。
「そうよ。私たちは、大昔の砂漠の魔女が残した呪いで、精霊を呼べなくなったの」
「見える人でも?」
ケニスは恐る恐る聞いた。
「ええ。見えてるのに、呼んでも来てくれないの」
「魔女の仲間かもしれないからね!邪法に捕まるのは嫌なんだよーハハッ」
カワナミが解説を加えた。
「道具に古代精霊文字を書いてお手伝いを頼む方法は、私たちの祖先が見つけたの」
「それ、聞いたわ」
「知ってるの?じゃあ、その方法を使って、悪い魔女が恐ろしい邪法を生み出したことは?」
「知ってる」
女性は寂しそうに眼を伏せた。
「そうぉ。私たちはね、元の大人しいやり方で、精霊から力を借りたくて呼ぶ時の目印に文字を道具に書くだけだったのよ」
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続きます




