221 予言の成就する時
オルデンたちは配られたお茶で渇きを癒す。一口飲んで、ケニスとカーラはこそこそと内緒話を交わす。
「お茶じゃないね」
「薬湯だわ」
「美味しい」
「美味しいわね」
ルフルーヴ城跡に生えている薬草を煮出した物だ。隠れ里の民も、精霊の見える者たちは波頭の精霊を見ながら囁き合っている。しばらく思わせぶりに鰭を動かした後、魚の姿をした波頭の精霊は、ようやく口を開いた。
「精霊王朝に幸運が戻るとき玉座は朽ちて苔むしる。荒れ果てた玉座の間が毒草に覆われたとき、焔が全てを焼き尽くす。智慧が育み希望の友が照らす焔の子は、精霊の城を取り戻す」
魚はそれだけ言うと、また目玉をギョロリと回した。それきり口をつぐんだので、皆はなんとなく次の言葉を待っていた。精霊が見えない人も、見える人から説明を受けてギョロ目の魚がいる辺りに注目する。
「終わり?」
ケニスがそっと聞いた。
「終わりだ」
魚の姿をした精霊が言った。
「どういう意味かな」
ケニスがオルデンを見た。
「幸運が戻るってのは、ヴォーラのことかな?」
「ケニーは精霊王朝の王子様よ。ヴォーラをケニーが手にしたのが、戻るってこと?」
「てこたあ、こりゃ、ケニーに関する予言か?」
「どうかしら」
カーラは考えながら予言を読み解いてゆく。
「幸運がヴォーラ、智慧はオルデン、希望はデロン、希望の友はあたし、カーラよね?」
どれも古代精霊語と関わりのある名前だ。幸運を意味するヴォーラ、智慧ある者を現すオルデン、希望の光と言う意味を持つデロン、そしてカーラは親友である。
「焔はケニーだから、邪法と悪い奴らばかりのノルデネリエを、ケニーが精霊達と幸せに暮らすところに変えるんじゃない?」
「ケニー、城に住むことになるのか」
オルデンは複雑な気持ちを声に乗せた。
「それでケニーが幸せなら、そうなるわね」
カーラはあくまでも、イーリスの子供達が幸せなほうへと導く者だ。精霊王朝もノルデネリエ王国全体も、どうなっても構わなかった。
オルデンやシャキアに教えられたので、人間の心を知ってはいた。しかし、やはり精霊であり、しかも特別の目的で生み出された契約精霊なのだ。カーラの興味はケニスの幸せだけである。
「だとすると、俺がヴォーラを手にして、ルイズがギィの炎で命を落とした後、ギィの邪法を破れるのかな」
「肝心の方法が何にも語られてないけどね」
「それに、エステンデルスはどうなるんだろう」
ケニスの疑問に、隠れ里のひとりが反応を示した。それに気づいた年長者の女性は、控えめに口を挟む。
「里の者が、何か知っているみたいです」
「あっいえ、その」
焦茶の髪をまとめた平凡な中年女性が、おどおどと隠れようとした。
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