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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
221/311

221 予言の成就する時

 オルデンたちは配られたお茶で渇きを癒す。一口飲んで、ケニスとカーラはこそこそと内緒話を交わす。


「お茶じゃないね」

「薬湯だわ」

「美味しい」

「美味しいわね」


 ルフルーヴ城跡に生えている薬草を煮出した物だ。隠れ里の民も、精霊の見える者たちは波頭の精霊を見ながら囁き合っている。しばらく思わせぶりに鰭を動かした後、魚の姿をした波頭の精霊は、ようやく口を開いた。


「精霊王朝に幸運が戻るとき玉座は朽ちて苔むしる。荒れ果てた玉座の間が毒草に覆われたとき、焔が全てを焼き尽くす。智慧が育み希望の友が照らす焔の子は、精霊の城を取り戻す」


 魚はそれだけ言うと、また目玉をギョロリと回した。それきり口をつぐんだので、皆はなんとなく次の言葉を待っていた。精霊が見えない人も、見える人から説明を受けてギョロ目の魚がいる辺りに注目する。



「終わり?」


 ケニスがそっと聞いた。


「終わりだ」


 魚の姿をした精霊が言った。


「どういう意味かな」


 ケニスがオルデンを見た。


「幸運が戻るってのは、ヴォーラのことかな?」

「ケニーは精霊王朝の王子様よ。ヴォーラをケニーが手にしたのが、戻るってこと?」

「てこたあ、こりゃ、ケニーに関する予言か?」

「どうかしら」


 カーラは考えながら予言を読み解いてゆく。



「幸運がヴォーラ、智慧はオルデン、希望はデロン、希望の友はあたし、カーラよね?」


 どれも古代精霊語と関わりのある名前だ。幸運を意味するヴォーラ、智慧ある者を現すオルデン、希望の光と言う意味を持つデロン、そしてカーラは親友である。


「焔はケニーだから、邪法と悪い奴らばかりのノルデネリエを、ケニーが精霊達と幸せに暮らすところに変えるんじゃない?」

「ケニー、城に住むことになるのか」


 オルデンは複雑な気持ちを声に乗せた。


「それでケニーが幸せなら、そうなるわね」


 カーラはあくまでも、イーリスの子供達が幸せなほうへと導く者だ。精霊王朝もノルデネリエ王国全体も、どうなっても構わなかった。


 オルデンやシャキアに教えられたので、人間の心を知ってはいた。しかし、やはり精霊であり、しかも特別の目的で生み出された契約精霊なのだ。カーラの興味はケニスの幸せだけである。



「だとすると、俺がヴォーラを手にして、ルイズがギィの炎で命を落とした後、ギィの邪法を破れるのかな」

「肝心の方法が何にも語られてないけどね」

「それに、エステンデルスはどうなるんだろう」


 ケニスの疑問に、隠れ里のひとりが反応を示した。それに気づいた年長者の女性は、控えめに口を挟む。


「里の者が、何か知っているみたいです」

「あっいえ、その」


 焦茶の髪をまとめた平凡な中年女性が、おどおどと隠れようとした。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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