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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
220/311

220 予言

 身の内から噴き出す炎が、全身を飲み込む。それをノルデネリエ精霊王朝では祝福と呼ぶ。


「その火傷で命を落とすことはなかったのか?」


 オルデンが聞くと、魚の精霊は身体をくねらせて肯定した。


「炎は一旦収まっても、時々皮膚から吹き出して己が身を焼くんだ」

「やっぱりそうか」

「だから、ノルデネリエの王は歴代みんな短命なのさ」



 カーラがゆらりとランタンの火を虹色に揺らす。


「肉体が力に耐えられなくなるんだわ」


 肉体がギィの精霊の力に耐えきれず、火傷だらけになるのだ。精霊の血が半分入ったギィの力は、血が薄まった子孫には強大過ぎるのだ。



「祝福に代償なんかあるかよ」


 オルデンは吐き捨てる。


「ギィの強大な力を受けることを、祝福って呼ぶのかな」

「まあそんなとこだろうな、ケニー」

「なんで?火傷して弱って死んじゃうんだろ?」

「強大な力を得た祝福でもあるし、代償でもある、って考え方なのかもな」

「嫌な祝福ね」

「本当だよ」

「そうだよな」


 3人の会話に、サルマンは恐ろしそうに顔を強張らせた。サルマンはまだ、直接ギィや邪法使いと対峙した事がない。だが、聞いただけでも血の凍る思いがした。



「それじゃ今、ギィは末姫ルイズの中にいるんだな?」

「そうだよオルデン」

「たしかその姫さんが、最後の器だったな?」

「その通り。隠れ里にも虹色の瞳は生き残ってないみたいだしね」


 魚の報告を聞いて、隠れ里の大広間に少しだけ安堵の雰囲気が生まれた。そこへ、先程出て行った数名が、お茶を運んで戻って来た。


「ルイズが死んだら、ギィはどうするのかな」


 ケニスが険しい顔で言うと、カーラがさらりと答えた。


「砂漠の魔女みたいに、心臓をどこかに隠して時を待つんだわ」

「それはあり得るな」


 オルデンも暗い声を出す。


「なんとかして完全に消し去らないと」

「ええ、ケニー」

「魚、なんか他に聞いてないか?」

「そうさなあ」


 波頭の精霊はカワナミと戯れながら記憶を探る。さまざまな川から噂話を聞いているのだ。ノルデネリエのことだけではなかった。膨大な量になる。それをみんな覚えていた。溜め込まれた噂の数々から、ノルデネリエ精霊王朝に関わる噂話を選び出すのには、少しだけ時間がかかった。


「おお、そうだ」

「何か思い出したか?」


 魚はギョロリと目玉を回し、カワナミはその目玉を見て大笑いする。オルデンは身を乗り出して答えを待った。


「名もなき先見(さきみ)の予言、って知ってるか?」

「知らねえな」

「デロンからも聞いてないし、イーリスからも記憶を引き継いでないわ」

「何のことだか、話してくれよ」

「今話してやるよ、ケニー」


 魚は勿体ぶってゆらりと鰭を動かした。



お読みくださりありがとうございます

続きます

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