220 予言
身の内から噴き出す炎が、全身を飲み込む。それをノルデネリエ精霊王朝では祝福と呼ぶ。
「その火傷で命を落とすことはなかったのか?」
オルデンが聞くと、魚の精霊は身体をくねらせて肯定した。
「炎は一旦収まっても、時々皮膚から吹き出して己が身を焼くんだ」
「やっぱりそうか」
「だから、ノルデネリエの王は歴代みんな短命なのさ」
カーラがゆらりとランタンの火を虹色に揺らす。
「肉体が力に耐えられなくなるんだわ」
肉体がギィの精霊の力に耐えきれず、火傷だらけになるのだ。精霊の血が半分入ったギィの力は、血が薄まった子孫には強大過ぎるのだ。
「祝福に代償なんかあるかよ」
オルデンは吐き捨てる。
「ギィの強大な力を受けることを、祝福って呼ぶのかな」
「まあそんなとこだろうな、ケニー」
「なんで?火傷して弱って死んじゃうんだろ?」
「強大な力を得た祝福でもあるし、代償でもある、って考え方なのかもな」
「嫌な祝福ね」
「本当だよ」
「そうだよな」
3人の会話に、サルマンは恐ろしそうに顔を強張らせた。サルマンはまだ、直接ギィや邪法使いと対峙した事がない。だが、聞いただけでも血の凍る思いがした。
「それじゃ今、ギィは末姫ルイズの中にいるんだな?」
「そうだよオルデン」
「たしかその姫さんが、最後の器だったな?」
「その通り。隠れ里にも虹色の瞳は生き残ってないみたいだしね」
魚の報告を聞いて、隠れ里の大広間に少しだけ安堵の雰囲気が生まれた。そこへ、先程出て行った数名が、お茶を運んで戻って来た。
「ルイズが死んだら、ギィはどうするのかな」
ケニスが険しい顔で言うと、カーラがさらりと答えた。
「砂漠の魔女みたいに、心臓をどこかに隠して時を待つんだわ」
「それはあり得るな」
オルデンも暗い声を出す。
「なんとかして完全に消し去らないと」
「ええ、ケニー」
「魚、なんか他に聞いてないか?」
「そうさなあ」
波頭の精霊はカワナミと戯れながら記憶を探る。さまざまな川から噂話を聞いているのだ。ノルデネリエのことだけではなかった。膨大な量になる。それをみんな覚えていた。溜め込まれた噂の数々から、ノルデネリエ精霊王朝に関わる噂話を選び出すのには、少しだけ時間がかかった。
「おお、そうだ」
「何か思い出したか?」
魚はギョロリと目玉を回し、カワナミはその目玉を見て大笑いする。オルデンは身を乗り出して答えを待った。
「名もなき先見の予言、って知ってるか?」
「知らねえな」
「デロンからも聞いてないし、イーリスからも記憶を引き継いでないわ」
「何のことだか、話してくれよ」
「今話してやるよ、ケニー」
魚は勿体ぶってゆらりと鰭を動かした。
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