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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第一章 国境の森
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22 カーラ、初めての食事

 3人が川を上がると、陽がだいぶ傾いていた。


「張り付いて気持ち悪いわ」


 カーラがワンピースをあちこち摘んで、口をへの字に曲げる。カワナミがゲラゲラ笑い、オルデンがさっと手を上げた。手のひらを順番にカーラとケニスに向ける。温かな風がそれぞれに送られた。


「まあ、こんだけ暑けりゃほっときゃ乾くけどな」


 オルデンは白い歯を剥き出してカーラに笑いかけた。


「カーラもやってみな」

「こうかしら?」


 カーラが全身を乾かす間、ケニスも自分で乾燥させる。


「やりすぎると干からびちゃうから気をつけてね!」


 ケニスはお兄さんぶってカーラに教えた。


「干からびる?」


 カーラはどうやら生まれて間もなく眠りについたようだ。知っている言葉が案外に少ない。


「んーとね、お水がすっかり無くなっちゃうの!カラッカラに乾いちゃうの!」

「それは嫌ぁね」


 話すうちに3人はちょうどよく乾いた。


「それじゃ、カワナミ、またね」

「うん!」


 カワナミは3人に手を振ると、川の中へと帰って行った。



 オルデンはケニスを見下ろして、肩に手を置く。


「ケニー、腹減ったろ」

「うん!」

「魚と食える葉っぱ集めるぞ」

「美味しい実も食べよう」

「そうだな」


 3人はまず、森に入って食べられる草や実と、焚き付けに使えそうな枯れ枝や枯れ葉を集める。カーラは面白そうについて歩く。



「カーラ、みてみて、美味しそうでしょ?」


 ケニスは綺麗なオレンジ色に熟れた木苺の枝を掴む。


「美味しいって何だかよく分からないわ」

「カーラは精霊だからな。食う必要ねぇしな」

「カーラ食べないの?」


 ケニスはがっかりして眉を下げる。



 オルデンは瑞々しい森の恵みをひとつ摘み取り、カーラの前に出す。


「ほれ、口に入れてみな」

「えっ」


 難色を示すカーラに、オルデンは諭すように言った。


「これからその姿で過ごすなら、食わねぇと変に思われるぜ」

「そんなこと」

「一緒にいるケニーも変に思われるぜ」

「それは困るわ」


 カーラは「ノルデネリエの導き手」である。ケニスたちノルデネリエの王族を護り、ケニスが幸せになる手助けをする為に生まれた。ケニスが悲しんだり、ケニスが辛い思いをしたりということは、したくないのだ。



 ケニスがお手本で木苺を食べる。


「わっ!」


 真似してオレンジ色の実を噛んだカーラが、虹色の火の粉を飛ばす。星形だ。


「ばかっ、やめろ」


 オルデンは苦笑いで火の粉を消した。


「気をつけろよ?精霊ってバレたら色々面倒だからな」


お読みくださりありがとうございます

続きます

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