219 代償
青い花の精霊が隠れ里の特殊な事情を説明した。
「あっ、そうか」
ケニスがハッとする。
「俺たちはギィに見つかっちまったから、もう隠れる必要が無くなったんだけど」
「そうよね、悪かったわ。怖いわよね」
里を隠し通すために、精霊の配慮でこの地では祝福が与えられた事がないのだ。カーラもそれには思い至らず、短気を起こした非礼を詫びた。
「わかれば良いのよ」
青い花の精霊は、ツンと尖った鼻を上に向けた。
「ねえ、お城のことなら、魚が知ってるよー」
一方カワナミは、祝福をしない訳を聞いても精霊らしく無関心だ。カワナミが目覚めたのは、オルデンの力に惹かれてのものである。ノルデネリエもエステンデルスも、実は全く気にならないのだ。オルデンが話題にするので、付き合っているのである。
今回のことも、特に理由を知りたいとは思わなかった。精霊がすぐに群れ集まって来るオルデンやケニーに、ここの精霊たちは誰も近寄らない。祝福も与えない。それが奇妙だと思って笑っただけなのであった。
だから、理由が分かったところで、どうと言うこともない。話を進めるほうに興味が向いていた。
オルデンは頭を切り替えて、魚の姿をした精霊に問う。オルデンも、どちらかというと祝福をしない理由よりもノルデネリエの現状のほうが知りたかった。
「ほんとか」
「知ってる。海に流れ込んでくる川たちから聞いてる」
マーレニカ近海を住処とする波頭の精霊が目玉をギョロリと動かした。
「末姫ルイズが代償を受けたそうだ」
「代償?代償ってなに?」
空中で鰭を動かす魚の言葉に、ケニスが質問した。
「ノルデネリエ精霊王朝では、国王一族の遺伝病だとされてる症状があるんだ」
「それが代償?」
「そうだ。炎の洗礼とか、祝福の代償とか呼ばれている」
「炎の洗礼?イーリスと何か関係があるのかな」
ケニスは考える。
「ノルデネリエの玉座に着く者は、ある日炎が身体から吹き出して全身を呑み込むんだ」
「え、それ」
カーラが口を挟む。
「ギィの乗っ取りと闘ってる時、俺もなった」
「乗っ取り?」
今度は魚が聞いた。隠れ里の人々にも緊張が走る。
ケニスは、話して良いものかどうか決めかねる。助言を求めてオルデンを見た。オルデンはひとつ頷く。ケニスは安心して話し出す。
「ギィは、今でも生きている。子孫の身体を乗っ取って、何年も何百年も生き続けているんだ」
テーブルの周りがざわついた。
「そうなのか」
魚の姿をした波頭の精霊が驚く。
「歴代の王は1人残らず、代償として大火傷を負った」
魚の言葉に、今度はケニスたちが驚いた。
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