218 祝福をしないわけ
隠れ里の成り立ちをひと通り話し終えて、年長者の女性が片手を挙げる。すぐさま数名が席を立ち、花の精霊が使ったのと同じ扉から出て行った。
オルデンたちは、少し警戒の色を見せてその背中を見送った。
「城の現状を知ってるもんはいるのか?」
オルデンは大きなテーブルを見渡していった。皆じっと座っている。ここに虹色の瞳を持つ者はいない。髪も茶色や金茶が多く、緑色は見えなかった。緑がかった金茶ならちらほら見えたが。この人たちがイーリスの子孫とは、言われなければ分からない。
「何よ、この人達。感じ悪いわね」
カーラが不服そうにケニスに耳打ちした。
「ホントにイーリスの子孫なのかな」
ケニスも訝しがる。単にギィの悪政やエステンデルスでの差別から逃れて来た人々ではなかろうか、と思ったのだ。
「いねぇのか」
城の現状について口を開く者が無く、オルデンは期待外れで溜め息を吐く。
「それじゃ、もう用はねぇし、ハッサンの目が覚めたら出てくさ」
歓迎されない雰囲気に、オルデンはさすらい人の本能で気を揉んだ。カーラはじっとカンテラを見て口をへの字に曲げている。
カワナミがふと姿を消した。青い花の精霊は気まずそうに俯いている。沖風の精霊がシューっと壁際から飛んできた。
「おい、ダンマリか?」
里人や精霊たちに、鳥の姿をした精霊は苛立ちをぶつけた。
「相変わらず短気だな」
急にカワナミと共に現れた、魚の姿をした精霊が呆れ声を出す。
「あ、波頭の。なんでまたこんなとこに」
「おう、魚。元気にしてたか」
沖風の不機嫌を他所に、オルデンが気さくに声を掛けた。
「よう、オルデン」
魚の姿をした精霊は、パシャパシャと空中を泳いでオルデンとケニスの額に触れた。オルデンからは金の光、ケニスからは赤い光が放たれる。
ガタリ、と音を立てて年長者の女性が立ち上がる。
「なんですか?」
青い花の精霊は、慌てて年長者の袖を引いた。
「智慧の子よ、それから火炎の御子」
「え?それは何?」
年長者が険しい顔を作る。カーラは尖った声で詰め寄った。
「呆れた。あなた、里長じゃないの?精霊だって見えるのに、精霊の祝福も知らないの?」
「話には聞いておりますが」
「どういうことよ?ねえ、お花」
カーラのきつい物言いに大笑いしたカワナミは、飛沫を飛ばして青い花に話しかけた。
「アハハ!オルデンやケニーに祝福しなかったよねぇ!変な奴ぅー!」
「ええっ、それは珍しい」
波頭の精霊も、水で出来た魚の身体をくねらせる。青い花の精霊は、困ったようにカワナミを見た。
「私たちは、祝福の光で邪法遣いどもを呼び寄せたくないのよ」
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続きます




