217 ギィのもたらした不和
オルデンは、背後でまだ横になれずにいるハッサンをチラチラと気遣いながら、年長の女性に尋ねた。
「ここは、ギィの被害者が隠れてるそうだな?」
「ええ」
「俺たちのことは花から聞いただろうが、ここの人たちは、一体どういう被害にあったんだ」
「イーリスの血を引く者たちは、ノルデネリエでもエステンデルスでも、建国の祖に連なる者の筈なんです。それなのに虐げられて来たのです」
皆が大きなテーブルの周りに腰を下ろすと、年長者の説明が始まった。
「待ってよ。それ、長くなるの?」
「そうですね。話せば長くなりますよ」
ケニスもハッサンが気がかりなのだ。
「そしたら、ハッサンを寝かせてあげてよ」
「そうよ。見れば解るでしょう?」
カーラも強い口調で言った。
年長の女性は困った顔をする。
「ここは隠れ里ですから、訪ねてらっしゃる方もありません。お客様用のお部屋はないんです。この集会広間なら、ご自由にお使いいただけますが」
サルマンは険しい顔をした。しかし、オルデンは年長者に頭を下げて、急いで壁際に寄る。
「鳥、こっちにおろせ」
空気で暖かな寝床を作ると、オルデンは沖風の精霊を促した。これで漸くハッサンも横になれたのであった。
「それじゃ、続きを聞かせてくれるかしら?」
カーラは話の先を聞きたがる。
「ええ。それでね」
再び口を開いた年長の女性は、およそ次のようなことを語った。
ノルデネリエもエステンデルスも、イーリスの子供や孫が国として作り上げた。ノルデネリエは精霊と魔法の国だ。現在は、ギィの政策で差別と貧富の差が横行している。僅かでも魔法が使える者は、邪法を学び国の為に働く。魔法を使えない者は、飢えと寒さに苦しんでいる。
「ああ。ひでぇもんだ」
オルデンもそんな貧民の孤児だった。たまたま、親と違い飛び抜けた魔法の才能があり生き延びた。それが災いして、人違いで命を狙われている。
「ノルデネリエでも精霊と仲のいい人間は少ないからな。城には、よその国からも魔法使いが集められてるって、精霊たちは言ってるぜ」
「まあ、そこまでとは存じませんでした」
年長者の女性は、顔を曇らせる。
「精霊の力を喰らう邪法使いが少ないエステンデルスは、攻めてくるノルデネリエを退けるうちに、イーリスの子孫を『精霊喰い』として恐れるようになりました」
途中までは正しい歴史が伝わっていたのに、エステンデルスでシルヴァインの子孫は途絶えてしまったので、イーリスの子孫全てが邪悪な者と思われるようになって行ったのだ。魔法使いは精霊喰いの疑いを避けるため、力の補強だけしかしなくなった。
「ノルデネリエからイーリスの子孫は逃げてきました。でも、エステンデルスではスパイと思われ殺されたのです」
なんとか逃げ延びた一団がルフルーヴ川の古い精霊に助けられて、城跡に隠れ里を作ったということである。
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