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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
215/311

215 青い花と虹色の炎

 紫がかった青い花が、精霊の滑り降りた余韻でまだ揺れている。


「あたしは、ノルデネリエの導き手なの。このカンテラの光が連れて来たのよ。大弓の男サルマンも、ノルデネリエを幸せにする人なんだわ」


 カーラはキッパリと言った。イーリスを尊敬する青い花の精霊だ。イーリスの分身とも子供とも言えるカーラにそう言われてしまっては、もう従うしかなかった。



「けど、お花はずいぶん若そうだけど?イーリスを知っているのかしら?」

「私の遠い祖先に当たる花は、精霊の森でイーリスと会ったことがあるの」

「精霊に祖先なんてあるの?」

「私はお花よ?」


 疑わしそうなカーラに、青い花の精霊は馬鹿にしきった顔をした。カーラは腹立たしげに顔をしかめる。


「タネで記憶を引き継ぐのよ」


 そんなことも知らないのか、とばかりに花の精霊は目を細めた。



「へえ、すごいね」


 ケニスが眼を輝かせる。カーラはムッとしてケニスを睨んだ。


「なによケニー、お花の味方?」


 ケニスはたじろいで、思わず一歩下がった。


「なんだよ、カーラ?」


 カーラはむくれてプイとそっぽを向く。ケニスはだらしなく目尻を下げた。


「カーラ、可愛いなあ」


 カーラは勢いよく振り向くと、ずいっと顔を近づける。


「馬鹿にしてるの?」

「違うよ。可愛いなあと思ってさ」


 ケニスはさっとキスをする。カーラは赤くなって飛び退いた。ケニスはますます顔を緩めて、クスクスと笑った。


「何すんのよッ」

「何って。キスだけど?」

「急にしないでよ」


 カーラは怒っている。だがケニスは悪びれない。ますます愛おしそうにカーラを見下ろす。子どもの頃にはほとんど変わらなかったふたりの背丈は、14歳になった今ではかなりの差がついていた。剣士らしくがっしりしたケニスは、細く小さなカーラと並ぶと、一枚の絵のようによく映えた。


「したかったらするよ」

「恥ずかしいじゃないの」

「俺は嬉しいけど?カーラは嫌なの?」

「嫌じゃないわよ!」


 カーラはケニスをまっすぐに見た。


「なら、カーラがしたい時にもキスすればいいのに」

「恥ずかしいでしょ!」

「してよ?して欲しいなあ」


 カーラは言葉を失った。


「ねえ、今は?カーラ、キスしたくないの?」

「うるさいわね!」


 カーラはタタッと前に出て、花の精霊と並ぶ。


「早く案内してよ」

「あんた、威張ってんのね」


 花の精霊はチラリと軽蔑の笑みを浮かべてから、背を向けてその場にしゃがんだ。


「何よ、みんなして」


 カワナミは愉快そうに笑っている。枯草の精霊は興味が無さそうに手足をひらひらさせている。沖風の精霊は不機嫌な顔だ。


「何にせよ、早くしろ。ハッサンを横にしたほうがいい」

「鳥の言う通りだな」


 オルデンが同意して、サルマンは説明を聞いて目線で頷いた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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― 新着の感想 ―
[一言] ここにいったいどんなことが隠れているのだろう? そんなことを思いながら、楽しませていただいています。 カーラよりもケニスの方が精霊っぽく見えてしまいました。 カーラ可愛いですね。 読ませてい…
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