215 青い花と虹色の炎
紫がかった青い花が、精霊の滑り降りた余韻でまだ揺れている。
「あたしは、ノルデネリエの導き手なの。このカンテラの光が連れて来たのよ。大弓の男サルマンも、ノルデネリエを幸せにする人なんだわ」
カーラはキッパリと言った。イーリスを尊敬する青い花の精霊だ。イーリスの分身とも子供とも言えるカーラにそう言われてしまっては、もう従うしかなかった。
「けど、お花はずいぶん若そうだけど?イーリスを知っているのかしら?」
「私の遠い祖先に当たる花は、精霊の森でイーリスと会ったことがあるの」
「精霊に祖先なんてあるの?」
「私はお花よ?」
疑わしそうなカーラに、青い花の精霊は馬鹿にしきった顔をした。カーラは腹立たしげに顔をしかめる。
「タネで記憶を引き継ぐのよ」
そんなことも知らないのか、とばかりに花の精霊は目を細めた。
「へえ、すごいね」
ケニスが眼を輝かせる。カーラはムッとしてケニスを睨んだ。
「なによケニー、お花の味方?」
ケニスはたじろいで、思わず一歩下がった。
「なんだよ、カーラ?」
カーラはむくれてプイとそっぽを向く。ケニスはだらしなく目尻を下げた。
「カーラ、可愛いなあ」
カーラは勢いよく振り向くと、ずいっと顔を近づける。
「馬鹿にしてるの?」
「違うよ。可愛いなあと思ってさ」
ケニスはさっとキスをする。カーラは赤くなって飛び退いた。ケニスはますます顔を緩めて、クスクスと笑った。
「何すんのよッ」
「何って。キスだけど?」
「急にしないでよ」
カーラは怒っている。だがケニスは悪びれない。ますます愛おしそうにカーラを見下ろす。子どもの頃にはほとんど変わらなかったふたりの背丈は、14歳になった今ではかなりの差がついていた。剣士らしくがっしりしたケニスは、細く小さなカーラと並ぶと、一枚の絵のようによく映えた。
「したかったらするよ」
「恥ずかしいじゃないの」
「俺は嬉しいけど?カーラは嫌なの?」
「嫌じゃないわよ!」
カーラはケニスをまっすぐに見た。
「なら、カーラがしたい時にもキスすればいいのに」
「恥ずかしいでしょ!」
「してよ?して欲しいなあ」
カーラは言葉を失った。
「ねえ、今は?カーラ、キスしたくないの?」
「うるさいわね!」
カーラはタタッと前に出て、花の精霊と並ぶ。
「早く案内してよ」
「あんた、威張ってんのね」
花の精霊はチラリと軽蔑の笑みを浮かべてから、背を向けてその場にしゃがんだ。
「何よ、みんなして」
カワナミは愉快そうに笑っている。枯草の精霊は興味が無さそうに手足をひらひらさせている。沖風の精霊は不機嫌な顔だ。
「何にせよ、早くしろ。ハッサンを横にしたほうがいい」
「鳥の言う通りだな」
オルデンが同意して、サルマンは説明を聞いて目線で頷いた。
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