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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
214/311

214 隠れ里

 青い花の精霊は、慌てて花の茎にしがみつく。


「避難って、何処へ?」


 ケニスが首を傾げる。


「扉の先かしら?」


 カーラは確信したようだ。


「ええ。隠れ里があるのよ」


 花の精霊は、細長い葉を縦に並べたスカートを丁寧に伸ばす。


「それじゃ、行きましょうか」


 身仕舞いを整えて、花の精霊が丈の高い花茎を回りながら滑り降りる。上のほうに付いているいくつもの青い花が、精霊の動きを少し止めた。花丈のわりには小さな花だ。貴婦人のスカートのような優雅に膨らんで、縁がフリルのように波打っている。


 精霊が通り過ぎて、紫がかったその青い小花が次々に揺れると、さながら舞踏会の大広間のようだ。蝶や蜂が貴公子のように花の側に寄ってくる。カーラのランタンは、ステンドグラスを抜けて注ぐ月光のよう。真夏の太陽が落とす光は、草に跳ね返ってシャンデリアの煌めきを添えた。


 真昼の丘に現れた幻想の舞踏会は、精霊が地面に降りてもしばらくは続いた。音楽は草擦れと小鳥の声、そして虫たちが飛ぶ羽根の音。丘の麓を流れるルフルーヴ川の音は、流石にここまでは届かない。



「ちょっと待ってくれ。仲間がもう2人いる」

「ギィの奴の被害者?」


 オルデンが頼むと、青い花の精霊はうんと伸び上がって聞いてきた。親指程も無い小さな乙女の姿だが、膝を曲げて中腰になったオルデンに言葉がはっきり聞き取れた。花の精霊は、風に乗せて細い銀の糸を思わせる声を届けてくるのだ。


「そうだ」


 オルデンは断言した。


 サルマンについては、直接の被害者ではない。だが、悪鬼の活発化は、ギィの邪悪な魔法の気配が幻影半島を覆った為だ。サルマンが悪鬼討伐に参加する羽目に陥ったのは、その結果である。間接的には、やはり被害者なのだ。


 ハッサンの方はケニスの師匠として、かなり深く関わってしまっていた。ハッサンのサダは幸運刀である。始まりの戦いでジャイルズが手にしたヴォーラと同じ、幸運を糧に力を貸す精霊が住んでいる。オアシスにある逆さまの宮殿では、ギィ本体との直接対決にまで参戦したのだ。無関係とはもう言えない。



 急いで2人を連れてくると、青い花の精霊が目を吊り上げて怒り出した。


「大弓の男は、魔法も精霊も感じられないのね?」


 青い花の精霊は、どうやら普通人差別主義者のようだ。


「ギィのせいで幻影半島からここまで飛ばされて来たんだ。立派な被害者だぜ」


 オルデンが庇う。


「そうだよ。ひとりでここに残されたって、どうしようもないよ」


 ケニスも援護する。サルマンは、どうやら精霊に何かを拒否されているらしいと感じた。しかし、我慢強いアルムヒート港湾監督所の護衛官は、無言で成り行きを見守っている。会話の片方は見えない上に聞こえもしないのではあるが。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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