21 智慧の子
オルデンのことを智慧の子と呼ぶのは、精霊たちである。ケニスにはそれも良くわからなかったが、精霊みたいなもの、と言われても理解できない。
「デンも、ちょっと精霊なの?オーゾク?」
「オルデンはな、どんな精霊とでも仲良くなれる特別な人間なんだ」
川砂の精霊が説明する。オルデンは照れ臭そうに目を逸らす。
「ケニーは精霊の血筋だからみんなと仲良く出来るけどな、普通の人間はそうはいかないよ」
「人間は、精霊が見えないやつの方が多いのさ。見えても、せいぜいひとりの精霊と仲良いくらいかな。あと、精霊と仲がいい奴はだいたい魔法が得意だな」
川砂の精霊の言葉にオルデンが付け加える。
「ふうん。デンはやっぱりすごいや」
「そうだな、ケニー。沢山の精霊と仲良く出来る人間を智慧有る者とか智慧の子って言うのさ」
「そっか!」
「オルデンは、人間だけど精霊の感覚に近いんだよ」
そこまで話すと、川砂の精霊は突然川床の砂の中に潜ってしまった。普段は殆ど話をしない川砂の精霊は、たくさん喋って疲れてしまったようだ。
「帰るか」
川砂の精霊が完全に見えなくなると、オルデンはケニスに声をかけた。
「うん」
「カーラも行くぞ」
「分かったわ」
カーラは水面に顔を出すと、怖そうにまた潜ってしまう。
「カーラ、大丈夫だよ」
ケニスが励ます。
「空気にびっくりしたんだろ。音も匂いもいっぱいあるしな」
オルデンは豪快に笑う。水の中からカーラが不審そうな顔で見上げてくる。虹色の癖毛が水中で藻のように広がっている。眉根を寄せて、やや吊り上がった切長の大きな眼でケニスとオルデンを交互に見る。
カワナミが、ざぶんと水から飛び出した。
「空気も気持ちいいよ!カーラ」
カワナミは、笑いながらカーラを水の外へと誘う。ケニスは少し潜ってカーラの手を取った。カーラは渋々手を引かれて、そろそろと水から出る。
一行はゆっくりと川岸へと向かう。カーラはびくびくと辺りを見回しながら、大人しく手を引かれている。
陸に上がった時、カーラは再び驚きのあまり立ち止まった。剥き出しの足裏に触れた土や小石の感触があまりにも意外だったらしい。水面から顔を出した時と同様に、急いで足を川の中に戻した。
「こうするんだよ!」
ケニスはカーラに自分の足の裏を見せた。ケニスも裸足だが、魔法を使って空気の層を足の裏に纏っている。カーラは真似してみる。水際の湿りが一気に乾いてもやが立つ。カーラは焔の精霊なので、熱風を纏ってしまったのだ。
「カーラ、温くできないのか?」
オルデンが年長者らしく優しくアドバイスをする。
「やってみるわ」
カーラも素直に頷いて、ふわりと温かな風を足の裏に纏う。
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