表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
208/311

208 黒いカーテン

 ケニスはヴォーラに幸運を渡し、サルマンを覆う黒いモヤに向ける。黒いモヤは唸り声を上げていた。人のような、獣のような、あるいはそれが混ざり合ったような。渇いて命を落とした生き物は、なにも人間だけではないのだ。


 白い光が閃いて、薄くモヤだけを剥ぎ取る刃がサルマンの鼻先を掠めた。


「ひっ」

「サルマン、港に帰った方がいい」


 再び迫る悪鬼を切り裂きながら、ケニスがサルマンに話しかけた。


「あ、ああ。済まなかった」

「早く。礼なんか後でいい。また捕まらないうちに」


 ケニスは魔法の風にサルマンを乗せる。


「そうさせてもらう」


 サルマンが答える頃には、もうだいぶ風に運ばれていた。見送る暇もなく、残った4人と精霊たちが悪鬼に立ち向かう。



「どうする?オルデン」


 ハッサンは沖風の鳥に乗って踊るように曲刀を操る。悪鬼の砂は地を這うが、突然砂の高波となって上空を襲う。ハッサンは精霊と一体となり、高波すれすれに飛んだ。身体を斜めに傾けると同時に、風で砂を払い幸運の力を悪鬼に当てる。


「サダとヴォーラも使いすぎりゃ2人が危なぇなぁ」


 オルデンは風と水を駆使して砂を避け、何となく宥めるような気持ちを込めて素手で悪鬼を払った。


「わっ、オルデン、大丈夫かよ?」

「ハッサン、集中しろ。俺は大丈夫だ」

「そうだ、ハッサン。智慧の子が変なことしても気にするな。たいていは大丈夫だ」

「おい、沖風の!変なことってなんだよ」


 オルデンは口の悪い沖風の精霊に不満をぶつける。



「カーラはどう思う?」


 ケニスはカーラの意見を求める。カーラはノルデネリエの導き手なのだ。ケニスが幸せになる答えを出すに決まっている。


「デロンが、不浄の存在を清める精霊がいるって言ってたのよ。でも、どこにいるかわかんないわ」

「今の間には合わねぇか」


 ケニスが残念そうに肩を落とす。その間にも、黒いモヤとなった悪鬼どもが次々にやってくるのだ。


「ハッサンは戻ったほうが良さそうだな」

「頃合いを見て逃げるさ」


 無尽蔵に魔法を使えるオルデンたちと違って、ハッサンの魔法には限りがある。魔法や精霊のサポートで体力が補われることもない。


「無理すんなよ?パリサもヤラも残して逝くんじゃねぇぞ」

「言われなくても」


 ハッサンは青い瞳に不適な光を宿して、颯爽と回転する。精霊の鳥に乗って逆さまになり、身を捩り、急降下して悪鬼をズタズタにする。



 怒り狂った悪鬼どもは、黒いカーテンのように広がった。


「やべえ、呑まれる」


 ハッサンは沖風の精霊に顔を伏せてしがみつく。バチバチと顔や背中を打つ砂の音に混ざって、カーラの声が細く通った。


「今は流れのままに!行き止まりにはならないわ」


お読みくださりありがとうございます

続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ