206 邪念の共鳴
風や光でバラバラにされても、実体の無い黒いモヤたちはすぐにまた集まってくる。幸運の力は、浄化の力ではない。運良く急所に直撃するとか、強運によってたまたま弱点を突くとかいうものだ。ヴォーラもサダも、そこは同じである。
「くそッ、埒があかねぇ」
「やっぱり弓は効かないか」
後続組のハッサンとサルマンがぼやく。
「でも、運が良けりゃ、悪鬼どもは怨念を忘れて消えるんでしょう?」
ケニスは期待を込めて言う。
「そうだな。そうなりゃ、俺たちにとっては幸運、奴らの悪運も尽き果てるってもんさ」
ハッサンは闇雲にサダを振り回しながら答えた。
「やっぱり、ギィの邪念を浴びて凶暴さが増してやがんのかねえ?」
オルデンが歯噛みする。さまざな魔法を試して、精霊に力も借りる。悪鬼を追い散らそうとしているのだ。
「そうなんだろうよ。普通だったら静かに消えてく者たちまでが、悪鬼となって襲って来るんだからな」
右に左にサダの青い光を振り撒きながら、ハッサンはオルデンに答える。
「父ちゃん達が襲われた時には、サダが悪鬼どもにダメージを与えてたみたいなんだけどなあ」
「多少は消えてってるわ」
「そうだね、カーラ。ちょっとは効いてる」
ケニスは、嫌がらせのように低いところだけでうごめくモヤを剣先でつつきまわる。ハッサンもめげずにサダを振り上げ、振り下ろし、沖風の精霊に乗って飛び回る。
「悪鬼どもに、ギィの気配がするな」
オルデンの声が硬くなる。黒いモヤは邪悪なギィの撒き散らす強大な闇の気配に染まっていた。
「ギィ、また来るの?」
「いや、ケニー、それは分からない」
枯草の精霊が、必死でオルデンにしがみついていた。オルデンの側にいるのが一番安全だと考えたからである。
「手先でもないのに、悪鬼どもはギィと繋がってるみたいだ」
枯草の精霊が気味悪そうに呟いた。
「枯草は何ともねえのか?」
ハッサンが曲刀を閃かせて声をかけた。
オルデンたちの近くにいた精霊たちは、ギィの影響を受けずにすんだのである。ギィの狂気に直接晒されたあのさかさまの宮殿では、遠い異国の不思議なお守りに守られた。
そのお守りを持つバンがいない今、戦いの真ん中であっても、何かあった時を思えば、一行から離れないほうが良さそうだ。オルデンの肩ほど安心できる場所はない。
「また砂を集めてる!」
「砂をぶつける気かしら?」
黒いモヤが薄く広がって包み込むような動きをはじめる。荒野の乾いた大地を削り、悪鬼どもは再び砂嵐を呼び寄せる。最初よりも強い。荒々しい風が、一同の足を砂で覆った。
お読みくださりありがとうございます
続きます




