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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
205/311

205 接敵

 押し寄せる砂の波に乗り、ケニスは一音ずつをはっきりと発音する。


「ヴォーラ、幸せを力に」


 幸運剣ヴォーラが真っ白に光る。固まったり広がったりしていた黒いモヤは、ぐるぐると渦巻き始めた。ケニスがヴォーラをモヤの中に突き刺す。オルデンは風を操り、砂のうねりを抑えようとしている。


「デン、砂が薄れて悪鬼がはっきり見えて来た!」

「ああ。やっぱり黒いモヤだな」



 2人が並んで抵抗している所をぐるりと巻き込むようにして、モヤは細長くなる。背中に回ったところで、モヤは黒い人の形になった。


「時々形を作るから、人影にも見えるね」


 目鼻も口もない。手の指も分かれていない。卵型の顔には髪がない。


「砂嵐の中じゃあ、助けが来たかと思っちまうな」


 オルデンはケニスに応じながら、魔法でモヤを吹き飛ばす。



 風荒原の悪鬼が、地の底から響くような呻き声をあげる。


「効いてる!」


 ケニスは目を輝かせて、ヴォーラを持つ手を引き寄せ逆手に返す。同時に膝を折り、砂のうねりに向かって身を沈めた。そのまま掬い上げるような動作で悪鬼どもを薙ぎ払う。


「ヨシ!いいぞ」


 オルデンの目もギラリと光る。オルデンの頭布から枯草の精霊が這い出した。戦うタイプの精霊ではない。だが、怯えながらも枯草で出来た手をヒラヒラと伸ばす。


「ありがとう、枯草」

「えへへ、役に立ったかい?」

「ああ!この地の祝福がありゃあ百人力だぜ」


 枯草の精霊がオルデンの額に触れたのだ。精霊が少ないここ幻影半島では貴重な、精霊からの祝福である。オルデンの額は金色の光を放つ。


「やっぱり、土地の力が貰えるってのは、いいもんだな!」


 オルデンの光は全身を金色に染め上げる。



「アハハハハ!いけっ!オルデン!ケニー!」


 砂の中から、楽しそうな掛け声と共にカワナミが飛び出してくる。カワナミも迷わずオルデンを祝福した。ケニスの額にも触れる。


「カワナミ!」


 ケニスが感謝を示す。


「助かるぜ」


 オルデンは嬉しそうに眼を細めた。


「世話んなるぜ!カワナミ!」



 それからオルデンは炎の球をモヤに投げた。中からはカガリビが躍り出た。


「カガリビ!来たか」

「おう!来たぜ、オルデン」


 カガリビは威勢よく答えると、炎で風を温め砂を巻き上げた。黒いモヤは、ついに剥き出しとなる。



 鋭く切り裂く刃物のような風が来る。背中にハッサンを乗せた沖風の精霊だ。すぐあとに続くのは、ランタンを掲げたカーラだ。円蓋がある藍色の少女らしい手提げの灯りが、熱と風とを照らして虹色にゆらめく。


 そして、彼等人外の速度で動く者たちをサルマンが追いかける。ハッサンはサルマンの靴に風を纏わせ、遅れず弓を引けるようにした。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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