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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
204/311

204 砂嵐に乗って

 風荒原の悪鬼たちが群れを成してやって来る。凄まじい速さだ。オルデンとケニスは、襲撃を待たずにこちらから打って出ることにした。カーラをはじめとした他の仲間達が見守るなか、うねる砂に立ち向かう。


「ケニー、眼に気をつけろよ!」

「わかってるよ、デン!」


 ケニスが身を低めて風を切る。乾いた地面を硬い革のブーツで蹴って走る。ひたと前を見つめた少年の手は、腰の剣にかかって力がこもる。



 ちらり。


 ケニスは飛ぶように足を運びながら、隣を進むオルデンに横目で合図を送った。オルデンもチラリと視線を返して肯首する。


 すらり。


 ケニスは幸運剣ヴォーラを抜き放つ。眩く白い光が風荒原に走った。光の先には、荒地の悪鬼が凶暴に迫る。


「抑えろ、ケニー」



 オルデンがケニスの身を案じた。この剣に棲む精霊は、そもそもの出自が分からない。鍛冶屋が鍛えた剣に、勝手に入り込んで来たのだ。幸運を吸い取って力に変えるなどという、禍々しい力を持つ剣だ。使い手と敵の幸運をあまねく吸い上げ、吸い尽くせば、なお貪欲に命までをも喰らう。


 ケニスの祖先ジャイルズは、偶然手にしたこの剣に殺されたようなものだ。強大な敵や、数を頼んで押し寄せる圧倒的な敵。それを殲滅する為に、敵味方関係なく幸運を喰らうのだ。ギィの邪法と似ているが、こちらは剣に棲みついた精霊主体である。



「わかってる」


 ケニスは答える。気まぐれな精霊が主導権を握るとはいえ、四年の間、ハッサンの弟子として研鑽を積んできたのだ。むざむざ命まで吸い出されたりはしない。



 ヴォーラもサダも幸運の精霊が宿る武器である。だが、邪法を撃つ剣として存在している訳ではない。目の前にいる敵を屠るだけの道具である。


 道具は使いようだ。剣に宿る精霊の力は借りる。しかし、呑まれはしない。ケニスの目つきが鋭く光かる。流れるように、ヴォーラを抜いた。


 ヴォーラは話をしないが意思はある。提供される幸運を利用して未来へと道を切り開く。ギィとはまた違った大群の邪悪な敵と対峙して、ヴォーラはいま、興奮していた。



 ヴォーラとサダの反応に、悪鬼どもは猛り狂う。激しく砂をうねらせて、行くてを阻むケニスたちを排除しようと躍起になっていた。


「うわあ!」


 ついに先頭の砂の波ごと、黒々と渦巻く悪鬼がケニスに迫った。


「怯むな!それが狙いだ」

「うん、デン、気をつける」



 ケニスは手にした幸運剣を、天も落ちよと突き上げる。脛あたりまで届いてはまた退く砂の波を睨み、ケニスは徐に口を開く。


「ヴォーラ」


 剣の光は強まった。後方にいるハッサンの手元で、サダが共鳴し始める。こちらは青い光を漏らしていた。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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