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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
202/311

202 受け入れる生き方

 用心しないわけではないが、一行は和やかに風荒原を進む。カワナミの案内で、迷わずに悪鬼の出没する場所へと向かっている。それも心のゆとりを生んだ。初々しく寄り添う少年少女がいるので、大人たちの硬い気持ちが解れている。


 悪びれないケニスと恥ずかしがるカーラの様子は、明るい未来を信じさせる。いつ襲って来るのか予測がつかない悪鬼への恐怖が、ふたりの醸し出す幸せそうな空気で薄らいだのであった。



 ひそひそと睦まじく言葉を交わしていたケニスとカーラが、目を眇めて動きを止めた。サルマンも口を一文字にして背筋を伸ばす。オルデンは落ち着いて気配を探る。ハッサンは気楽な雰囲気で幸運の精霊刀サダを抜き放つ。


「イヒヒッ」


 カワナミが幼児の笑い声をあげて、小さな手で口を覆う。透明な水で出来た幼い男の子の手は、ぷっくりと可愛らしい。


「みんな目を細めちゃって可笑しいの!」



 カワナミの声は聞こえなくても、サルマンに水飛沫がかかる。サルマンはチラリと一瞬もの問いたげに、目だけオルデンに向ける。


「精霊がいるのか」

「いる。ふざけてばかりの奴じゃぁあるが、ここって時にゃ頼りになるんだぜ」


 オルデンはカワナミを持ち上げる。サルマンはやはり険しい顔のまま。別段怒っているわけではない。この辺りの人はあまり顔に気持ちを出さないのである。



「へえ」

「カワナミってのさ。精霊大陸にある国境(くにざかい)の森で生まれた水の精霊だ」

「カワナミか」


 サルマンは表情を動かさずに短く言って頷いた。


「姿を見ることも話すことも出来ねえが、よろしく頼む」


 サルマンの挨拶に、カワナミは大笑いしながら盛大に水の渦巻きを作った。


「アハハハハ!人間て可笑しいねえ。聞こえないし見えないんだから、挨拶したって仕方ないのにねーっ」



「カワナミ、隠れてるわけじゃねぇんだろ?」

「そうだよ、オルデン。この人はどうやったって見えないんだよ」

「そういう人間もいるんだな」

「そうだよー」


 サルマンは特に残念そうな雰囲気は見せない。


「砂漠の港じゃ、あるがままに受け入れんのさ」

「なんでも?」

「ああ、ケニー。なんでも、どんなことでもな」

「それでも悪鬼には立ち向かうの?」


 ケニスは不思議に思う。



「諦めちまうのとはちょっと違うんだ」

「違うの?」

「悪鬼はいまだかつてない程暴れて、たくさんの人が被害にあったが、そうなっちまったのは、ただそうなってるからなんだ」

「避けられないってこと?」

「まあ、そうだな。その日そうなることは決まってるから、静かに受け入れて行くしかない」

「でも、抵抗はするんだよね?」

「受け入れた上で、選べることや、これからのためになることを重ねてくより他にねえのさ」


 サルマンの言葉は、海や砂漠といった厳しい自然のもとで暮らす人の考え方だった。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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