表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
最終章 不在の王妃
201/311

201 ケニスの覚悟

 風荒原に棲む悪鬼は、群れで襲って来ること以外はよく分かっていない。今回の大被害でも、サルマンによれば、生き残った数名の証言も今までに判っている範囲だとのこと。


「そしたら、俺とハッサン師匠が先ず対応して、他のみんなはそれぞれに出来ること試すのがいいか」


 ケニスはヴォーラの柄頭を撫でる。初めて手にした時には持ち上げることもできなかった。持てるようになってからも、長らく背中に背負わなければ引きずってしまった。今ではようやく腰に巻いたベルトに吊っている。


「そうだな、ケニー」

「気をつけるのよ?」


 悪鬼は、いつ襲って来るかわからない。しばらくは凡その位置が決まっているのが、せめてもの救いだ。被害者が出た後はルートを変えるのだ。だが、この度の襲撃は少し様子が違う。


「今回はかなり広範囲で出没したから、もう幾つもの隊商がやられてんだ」


 サルマンがグッと眉を寄せる。



「カワナミ、どうなんだ?」

「邪悪な奴がこっち来たからねー、張り切って増えたんじゃないのー?ヒャハハハ」


 サルマンに聞こえていたら激怒されるような調子だ。相変わらずのカワナミである。これでも邪悪な存在にならないのは、オルデンが好きだからというだけの理由かも知れない。そもそも精霊に善悪はあまりない。ただ、ギィや砂漠の魔女は精霊の力を喰らうため、精霊たちにとっては邪悪な存在とされるのだ。



「サルマン、もしかしたら、俺達が幻影半島に来たせいかもしれねぇ」

「オルデン!それは違うだろ?悪いのはギィだぜ」


 サルマンが答えるより前に、ハッサンが口を挟む。


「ハッサン師匠、サルマン、俺のせいなんだ」

「ケニー!」

「いいんだ、カーラ」


 ケニスは落ち着いている。


「デンが命を狙われてるのも、俺たちノルデネリエ精霊王家の迷信が原因なんだし」

「ケニーだって殺されかけてんだろ」

「デンや幻影半島のみんなは、とばっちりだろ?」



「でも」


 カーラが強い口調で遮ろうとする。だがケニスはカーラの手を握って、優しい眼で首を振る。


「だから、俺が決着をつける。精霊大陸でも、ここでも、迷惑ばかりかけてるギィと砂漠の魔女の非道な行ないは、俺が終わりにしてやる」


 黙って最後まで聞いていたサルマンは、鋭い目つきで口を開いた。出てきた言葉は、しかし優しいものであった。


「いい心掛けだ。事情はよく分からんが、覚悟を決めて因縁を断ち切るってのは、ケニーの歳じゃ辛ぇだろうに」

「ありがとう、サルマン」

「ケニー、無理はすんなよ?」

「わかってるよ、デン」


 ケニスは凛々しく言い切った。


「額の文字が消えたって、新しく邪法を仕掛けてくることもあるかもしれねぇからな」

「そうね、デン。ケニー、油断しないのよ?」


 ケニスは、今まで見せたことないような大人びた目つきになった。カーラの心配にはニヤリと笑って、さっと肩を抱き寄せる。


「あっ!ケニー!何すんの!」

「キスだよ。大好きだからね」


 大人たちは呆れて言葉を失った。


お読みくださりありがとうございます

続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ