201 ケニスの覚悟
風荒原に棲む悪鬼は、群れで襲って来ること以外はよく分かっていない。今回の大被害でも、サルマンによれば、生き残った数名の証言も今までに判っている範囲だとのこと。
「そしたら、俺とハッサン師匠が先ず対応して、他のみんなはそれぞれに出来ること試すのがいいか」
ケニスはヴォーラの柄頭を撫でる。初めて手にした時には持ち上げることもできなかった。持てるようになってからも、長らく背中に背負わなければ引きずってしまった。今ではようやく腰に巻いたベルトに吊っている。
「そうだな、ケニー」
「気をつけるのよ?」
悪鬼は、いつ襲って来るかわからない。しばらくは凡その位置が決まっているのが、せめてもの救いだ。被害者が出た後はルートを変えるのだ。だが、この度の襲撃は少し様子が違う。
「今回はかなり広範囲で出没したから、もう幾つもの隊商がやられてんだ」
サルマンがグッと眉を寄せる。
「カワナミ、どうなんだ?」
「邪悪な奴がこっち来たからねー、張り切って増えたんじゃないのー?ヒャハハハ」
サルマンに聞こえていたら激怒されるような調子だ。相変わらずのカワナミである。これでも邪悪な存在にならないのは、オルデンが好きだからというだけの理由かも知れない。そもそも精霊に善悪はあまりない。ただ、ギィや砂漠の魔女は精霊の力を喰らうため、精霊たちにとっては邪悪な存在とされるのだ。
「サルマン、もしかしたら、俺達が幻影半島に来たせいかもしれねぇ」
「オルデン!それは違うだろ?悪いのはギィだぜ」
サルマンが答えるより前に、ハッサンが口を挟む。
「ハッサン師匠、サルマン、俺のせいなんだ」
「ケニー!」
「いいんだ、カーラ」
ケニスは落ち着いている。
「デンが命を狙われてるのも、俺たちノルデネリエ精霊王家の迷信が原因なんだし」
「ケニーだって殺されかけてんだろ」
「デンや幻影半島のみんなは、とばっちりだろ?」
「でも」
カーラが強い口調で遮ろうとする。だがケニスはカーラの手を握って、優しい眼で首を振る。
「だから、俺が決着をつける。精霊大陸でも、ここでも、迷惑ばかりかけてるギィと砂漠の魔女の非道な行ないは、俺が終わりにしてやる」
黙って最後まで聞いていたサルマンは、鋭い目つきで口を開いた。出てきた言葉は、しかし優しいものであった。
「いい心掛けだ。事情はよく分からんが、覚悟を決めて因縁を断ち切るってのは、ケニーの歳じゃ辛ぇだろうに」
「ありがとう、サルマン」
「ケニー、無理はすんなよ?」
「わかってるよ、デン」
ケニスは凛々しく言い切った。
「額の文字が消えたって、新しく邪法を仕掛けてくることもあるかもしれねぇからな」
「そうね、デン。ケニー、油断しないのよ?」
ケニスは、今まで見せたことないような大人びた目つきになった。カーラの心配にはニヤリと笑って、さっと肩を抱き寄せる。
「あっ!ケニー!何すんの!」
「キスだよ。大好きだからね」
大人たちは呆れて言葉を失った。
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