20 カワナミ
オルデンはカワナミに聞いてみる。
「カワナミ、いつからここにいる?お前ぇ、デロンは知らないんだろ?」
「うん。知らない」
「じゃ、何で魔法錠の開け方知ってたんだよ?」
「オルデンに名前を貰ったら、急に分かったんだよ」
意外な答えに、ケニスが驚きの声を上げた。
「ええっ、カワナミって、デンが名前付けたの?」
「そうだったかな」
「そうだよ!オルデン忘れたのー?」
カワナミがいつものようにゲラゲラ笑う。
「オルデンが初めてこの川に来た時に、名前をくれたんだよ」
カワナミは、オルデンとの出会いを手短に語った。
※
カワナミは、ある日心地の良い力を感じて目が覚めた。精霊はそうやって生まれるのだという。カワナミがこの川で生まれたとき、川のほとりにひとりの若い男が休んでいた。心地の良い力は、その男が水に差し入れた掌から流れてくる。
「ねえねえ、何してるの?」
カワナミはその男をすぐに気に入って話しかけた。男はゴツゴツと荒っぽい手で水を掬って一口飲むと、カワナミの方を見た。
「ん?お前ぇ、生まれたてか」
「そうみたい。あんたの力で目が覚めたんだ」
「へえ。そうかい。名前あんのか?」
オルデンの経験では、精霊には名前があったりなかったりする。
「ない。つけてよ」
「お前ぇ、変わってんな」
オルデンはそんなことを頼まれたのは始めてだ。髪も髭もないツルツルの顔でニッと笑うと、カワナミをちょんとつつく。
「よし、川波でどうだ」
即決である。オルデンは深く考えない性質なのだ。カワナミもそれで気に入ったらしく、飛沫を飛ばして喜んだ。
「うん!カワナミ!いいねえ」
カワナミの振り撒く雫は、木漏れ日を受けてキラキラと輝く。
「あんたは?名前あんの?」
「あるにはあんな」
オルデンも、いつのまにか精霊たちに呼ばれているだけで、それが本当に自分の名前なのかどうかは解らない。なにしろ親の顔も知らない子供だったのだ。
「ふうん。なんて言うの?」
「オルデンだ」
それがふたりの出会いであった。
※
話を聞き終わると、ケニスがオルデンの手を引っ張る。
「ねえねえ、デン!カワナミはデンの力から生まれたんだねえ」
「ありゃ?そうかもな?」
オルデンは初めて気がついたようだ。
「成程それでか」
川砂の精霊が納得して頷く。
「賢老の力を受けて生まれた特別な精霊だったんだな」
「おんなじ川に住んでるのに、知らなかったの?」
ケニスは不思議そうだ。
「知らなかった」
川砂の精霊は淡々と答える。
「精霊は、そういうのあんまり気にしねぇよな」
「オルデンも気にしないよねー」
オルデンの言葉にカワナミがお腹を抱えて笑うと、川砂が断言した。
「智慧の子は精霊みたいなもんだからな」
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続きます




