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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第一章 国境の森
20/311

20 カワナミ

 オルデンはカワナミに聞いてみる。


「カワナミ、いつからここにいる?お()ぇ、デロンは知らないんだろ?」

「うん。知らない」

「じゃ、何で魔法錠の開け方知ってたんだよ?」

「オルデンに名前を貰ったら、急に分かったんだよ」


 意外な答えに、ケニスが驚きの声を上げた。


「ええっ、カワナミって、デンが名前付けたの?」

「そうだったかな」

「そうだよ!オルデン忘れたのー?」


 カワナミがいつものようにゲラゲラ笑う。


「オルデンが初めてこの川に来た時に、名前をくれたんだよ」


 カワナミは、オルデンとの出会いを手短に語った。



 ※



 カワナミは、ある日心地の良い力を感じて目が覚めた。精霊はそうやって生まれるのだという。カワナミがこの川で生まれたとき、川のほとりにひとりの若い男が休んでいた。心地の良い力は、その男が水に差し入れた掌から流れてくる。


「ねえねえ、何してるの?」


 カワナミはその男をすぐに気に入って話しかけた。男はゴツゴツと荒っぽい手で水を掬って一口飲むと、カワナミの方を見た。


「ん?お()ぇ、生まれたてか」

「そうみたい。あんたの力で目が覚めたんだ」

「へえ。そうかい。名前あんのか?」


 オルデンの経験では、精霊には名前があったりなかったりする。


「ない。つけてよ」

「お前ぇ、変わってんな」


 オルデンはそんなことを頼まれたのは始めてだ。髪も髭もないツルツルの顔でニッと笑うと、カワナミをちょんとつつく。


「よし、川波(カワナミ)でどうだ」


 即決である。オルデンは深く考えない性質(たち)なのだ。カワナミもそれで気に入ったらしく、飛沫を飛ばして喜んだ。


「うん!カワナミ!いいねえ」


 カワナミの振り撒く雫は、木漏れ日を受けてキラキラと輝く。


「あんたは?名前あんの?」

「あるにはあんな」


 オルデンも、いつのまにか精霊たちに呼ばれているだけで、それが本当に自分の名前なのかどうかは解らない。なにしろ親の顔も知らない子供だったのだ。


「ふうん。なんて言うの?」

「オルデンだ」


 それがふたりの出会いであった。



 ※



 話を聞き終わると、ケニスがオルデンの手を引っ張る。


「ねえねえ、デン!カワナミはデンの力から生まれたんだねえ」

「ありゃ?そうかもな?」


 オルデンは初めて気がついたようだ。


「成程それでか」


 川砂の精霊が納得して頷く。


賢老(オルデン)の力を受けて生まれた特別な精霊だったんだな」

「おんなじ川に住んでるのに、知らなかったの?」


 ケニスは不思議そうだ。


「知らなかった」


 川砂の精霊は淡々と答える。


「精霊は、そういうのあんまり気にしねぇよな」

「オルデンも気にしないよねー」


 オルデンの言葉にカワナミがお腹を抱えて笑うと、川砂が断言した。


「智慧の子は精霊みたいなもんだからな」


お読みくださりありがとうございます

続きます

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― 新着の感想 ―
[良い点]  生まれたてで名前の無かった精霊にオルデンが与えたこの名前ェ!実に直球じゃないですかァ!  カワナミはオルデンから与えられた名前に引っ張られているのか。あるいはオルデンが無意識にその者の本…
2022/07/15 01:28 退会済み
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