199 乾いた大地を生きる者
ハッサンからの情報を聞いて、一同の顔には陰がさす。
「どうする。サルマンは抜けてもいいんだぜ」
オルデンは、魔法を持たないサルマンに決断を促す。
「いや、行く。俺は復讐のためじゃねぇが、風荒原ルートが潰れるとアルムヒートも廃れちまうからな」
「だな。オアシスルートの競争も激しくなっちまうし、山脈を超えてくる貴重な薬も手に入らなくなっちまう」
「薬が?」
普通の人間は病気や怪我に苦しみ、薬は大切だ。自分達には無縁だが、ハッサンやヤラたちは薬を使う。オルデンもケニスも、薬効のある植物は肉や魚の味付け程度に思っていた。しかしケニスはこの4年、ハッサンやシャキアの辛そうな様子を見てきたのだ。その時、薬があれば早く治ると学んだのである。
「薬無いと、困るよな?」
「ああ。しかも、作り方が秘密にされてる、貴重でよく効く薬があるんだ」
「その薬が買えないと治らない病気があるんだ」
サルマンが付け加えた。
「売りにも買いにも行かれず商売出来なくなって、病人は苦しむんだ」
「悪鬼、やっつけねぇとな!」
「そうだな、ケニー」
ケニスがやる気を見せると、オルデンはトンと背中を叩いた。成長期の少年は、欠かさず行ってきた鍛錬の成果で、日に日に逞しくなっている。背中の筋肉もしっかりと育っていて、先行きが楽しみな体格であった。だが、オルデンにとっては、バイカモの白い花に埋もれて川遊びをしていた子供のままだ。慈愛に満ちた眼差しを、宿命の少年に送る。
「わたしたちなら、簡単だわ」
「油断しちゃダメだよ、カーラ」
自信満々なカーラに、ケニスは心配そうな声を出す。
「ふん、あたしたちは、賢い龍の吐く炎から生まれたイーリスに連なるものよ?」
カーラはイーリスの最期の吐息であり、ケニスは文字通りイーリスの末裔だ。強大な炎が持つ力をその身に宿した、精霊の血が流れる子供達である。
「こんな乾いた土地の、大勢で群れてる鬼なんか、一捻りだわ」
「なんでぇ、嬢ちゃん。威勢がいいなあ」
「カーラよ!ちゃんと名前で呼んでちょうだい」
カーラが鼻息荒く胸を張る。皆が笑ったので、精霊の少女は益々不機嫌になってしまった。
「とにかく、行ってみるさ」
サルマンが淡々とした口調で言った。荒原を行く人は、海や森や山の人々とは雰囲気が違う。ハッサンも砂漠が広がる幻影半島の住民だ。しかし、人生の多くは船で学んだ男である。ハッサンは粗っぽいところもあるが、陽気で気さくだ。サルマンはどちらかというと、気難しい顔立ちである。
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