196 魔法使いと荒野の水
荒原の太陽はギラギラと熱を降らせる。途中でドライフルーツと魔法で取り出した水をお腹に入れたが、そろそろ空腹が辛い時間だ。
「半分くらいきたよー!きゃははは」
「サルマン、あと半分くらいだ」
カワナミの知らせをオルデンが伝えると、精霊が見えないサルマンは黙って頷いた。一同は砂と太陽を避けるために目の下まで布を巻きつけている。
サルマンが水の入った皮袋で唇を濡らす。汗が出ると疲れるからでもあり、水が貴重な地域だからでもある。
「サルマン、あんまり呑まないよね」
「ケニーたちはここらじゃ見ねぇ色だが、荒れ野は知らねぇのか」
「うん。森から来て、オアシスに4年いた」
「それでか。ここらじゃ、唇を湿らせるだけなんだぜ」
ケニスは虹色の眼を大きく見開いた。悪鬼退治の仲間になってから、色を隠すのはやめている。緑の巻き毛も覆い布からはみ出していた。
「喉渇かないの?足りないなら上げるけど」
「ガキから巻き上げるほどモウロクしちゃいねぇ」
「そう?欲しい時は言ってくれよ?」
一方のオルデンたちは、空気からでも、地下水脈からでも、水はいくらでも手に入る。たっぷりと水分補給をしているオルデンたちを、厳しい目で見て来たサルマンである。
「え?」
目の前には、硬い木をくり抜いた水筒を飲み干して、空中から水を注ぎ入れるケニスがいた。
「なに?」
「ケニー、この人、魔法をよく知らないのよ」
「なんだ、そうか」
「サルマン、お水なんかいくらだって飲めるわよ?」
「海の水が空気に混ざると、呑めるようになるんだぜ」
オルデンは極めて大雑把なことを言う。水が安全だと伝えたかったのである。魔法の水を怖がる人もいるからだ。
「そうか?」
魔法でつまめるように丸めた水を受け取って、サルマンはおっかなびっくり舐めてみる。
「水だな」
「水よ!そう言ってるでしょ」
「しかも美味い」
「だろ」
オルデンも得意げに瞳を踊らせる。
「お礼をしねぇとな」
風荒原の生き物はおおよそ肉が薄く硬いが、中にはそれなりに食べ出のあるものもいた。素早い動きでサルマンが仕留めたのは、前歯の大きな風ネズミだ。木の皮が主食な草食動物である。
仕留めた獲物を、オルデンが魔法で手元まで持ってくる。サルマンが風ネズミから弓を抜く。あと足を掴んでぶら下げながら、血抜きをするのだ。サルマンの肘から手首くらいしかない小型動物なので、さほど時間はかからない。オルデンが魔法で補助するのだから尚更だ。
血抜きを終えると、サルマンは獲物を掲げてニッと目を細める。
「飯にしよう」
「分けてくれるの?」
ケニスが驚く。サルマンは当然だ、という顔で答えた。
「貴重な水をふんだんに飲ませて貰ったんだ。こんなじゃ、お礼にもならん」
お読みくださりありがとうございます
続きます




