19 デロンの遺産
オルデンたち一行が穴から出てくると、遺跡の敷石が静かに現れた。地下への入り口は音もなく消えてしまう。
「あれ?」
カワナミが敷石を見つめる。オルデンとケニスも入り口の穴があった場所を見た。
「魔法錠が無くなっちゃったねえ」
ケニスが、虹色の瞳に困惑を浮かべてオルデンを見上げる。
「んっ?」
「あれっ、ねえデン!」
次の瞬間には、ふたりは水草や流木しかない川の底に立っていた。
「遺跡、消えちゃったー!」
オルデンとケニスと、その周りに集まった精霊たちを残して、川底の遺跡は影も形も無くなっていたのだ。
カワナミが渦を作って大笑いする。
「アハハハ!本当に無くなっちゃった!」
遺跡は隠れたわけでわなく、すっかり消えてしまった。まるで初めから遺跡など無かったかのように、川底は静かだ。古代精霊文化の遺跡があった気配は一切失われてしまっていた。
「本当にカーラの為だけの空間だったんだな」
オルデンはしみじみと言う。
「カーラを守る地下があるから、入り口がある部分の周りもある程度残ってたんだろ」
「デロンはカーラがとっても大事だったんだね」
「そうよ」
カーラは、虹色の癖毛に魚が隠れようとするのをそのままにして、唇を噛んだ。その唇はもう虹色ではない。少女の薄紅色に変わっている。小さくぷっくりした愛らしい口は、今にも泣き出しそうにふるふると震えていた。
「噂には聞いてたが」
川砂の精霊が口を開く。この精霊は非常な高齢で、宿った石が川砂になる前から存在しているのだと言う。最初はこの場所にある道端の石だった。ここに川が出来て、削れてすっかり砂になってしまったそうだ。それでも消えずに残っていた。無口なので、話をするのは貴重だ。
「あんたがデロンの遺産だな」
川砂の精霊が、カーラを見上げる。オルデンの掌に収まるほどの身長しかない。カーラは涙を滲ませながら、川砂の小さな老人に視線を返す。
「いさん?」
ずっと寝ていたカーラには、知らない言葉が沢山ありそうだ。それに精霊は気まぐれなので、興味がないことは忘れる。
「死んだ後に残されたもんを遺産て言うのさ」
オルデンが説明してやる。
「デロンは、本当に死んじゃったのね」
カーラは、地下を出てもやっぱりデロンの気配が無いことに気づいていた。いよいよデロンには二度と会えないのだと認めざるを得なかった。
「けどなんで、カワナミは地下に入れたんだ?」
川砂の精霊が不審そうにカワナミを見る。
「誰も入り口なんか知らなかったのに」
「そうだよ。後について行こうとしたけど、俺たち入れなかった」
「魚だって入らなかった」
川の仲間が騒ぎ出す。オルデンも同じ疑問を感じていた。
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続きます




