189 それぞれの旅立ち
一行はシャキアのカンテラ工房がある遺跡に戻ると、黙って朝食をとった。重苦しい沈黙が、澄んだ朝の青空の下に横たわる。それぞれに身の振り方を考えているのだ。
「悪いけど、こっちに残らしてもらう」
食事を終えて、バンサイが先ず口を開いた。
「うんまあ、悪ぃも何も、バンは一切ギィとも精霊とも関係ねぇしな」
オルデンが言いながら食器を持って立ち上がる。皆もぞろぞろと洗い場に向かう。洗い場と言っても、遺跡の端で食器を擦って濯ぐだけだ。枯草を束ねた物で汚れを落とし、剥き出しの土へと水を捨てる。
「じゃあ、お別れも兼ねて今から市場に行きましょうか?」
シャキアが立ち上がって提案した。オルデンの顔に寂しそうな陰がよぎる。何も言わないが、シャキアもここに残るのだ。
「そうしよう。デロンと関わりのない場所に行かれるかどうかも分かるし」
バンサイは乗り気だ。
ハッサンは複雑な表情でオルデンを見た。ハッサンも、妻にと思っていたパリサや妹のヤラと別れなければならない。ギィと対峙してみて勝算が少しはあると思った。しかし、ギィの本拠地に乗り込んでとなると、今回より苦戦するのは明らかである。
今別れ別れになってしまったら、二度と会えないかもしれない。だが、ギィと関わりがなく戦う力のない者たちを連れて海を渡るのは、良い考えとも思えないのだ。ハッサンは大事な人々を残してゆく。シャキアにも同行を勧めるわけにも行かず。
「オルデン、ちょっといいか」
「なんだよ、ハッサン」
男2人が、すこし離れたところまで歩いてゆく。付いて行こうとした精霊たちは、ハッサンに押し留められた。
「置いてくつもりか?」
ハッサンは聞いた。
「当たり前だろ?ハッサンだってパリサとヤラを置いてくだろ」
「俺は、仕事ん時ゃいつもそうだからな」
「今回は、生きて帰れるか分かんねぇぞ?」
「そんな危険な旅に連れてけるかよ」
「俺だって同じだよ」
オルデンは理解できない顔をした。
「シャキアはアルジャハブたち火の精霊と仲がいいだろ」
ハッサンが指摘する。パリサたちとは条件が違う。しかしオルデンは否定した。
「けど、戦える程の魔法は使えねぇ」
「身を守ることはできるよな」
「本気で言ってんのか」
ハッサンの本音が判らず、オルデンは鋭い眼差しを投げる。
「戦えたって、巻き込めるかよ?」
「そりゃそうだがな」
ハッサンは口を曲げた。
「事が済んだら、迎えに来んのか?」
「いや、」
オルデンは言い淀む。
「だろ?」
ハッサンは足を止めた。
「ケニー置いてこっちに住む気は?」
「それは」
オルデンは難しい顔をした。
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