表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第四章 イーリスの子供たち
189/311

189 それぞれの旅立ち

 一行はシャキアのカンテラ工房がある遺跡に戻ると、黙って朝食をとった。重苦しい沈黙が、澄んだ朝の青空の下に横たわる。それぞれに身の振り方を考えているのだ。


「悪いけど、こっちに残らしてもらう」


 食事を終えて、バンサイが先ず口を開いた。


「うんまあ、悪ぃも何も、バンは一切ギィとも精霊とも関係ねぇしな」


 オルデンが言いながら食器を持って立ち上がる。皆もぞろぞろと洗い場に向かう。洗い場と言っても、遺跡の端で食器を擦って濯ぐだけだ。枯草を束ねた物で汚れを落とし、剥き出しの土へと水を捨てる。



「じゃあ、お別れも兼ねて今から市場に行きましょうか?」


 シャキアが立ち上がって提案した。オルデンの顔に寂しそうな陰がよぎる。何も言わないが、シャキアもここに残るのだ。


「そうしよう。デロンと関わりのない場所に行かれるかどうかも分かるし」


 バンサイは乗り気だ。



 ハッサンは複雑な表情でオルデンを見た。ハッサンも、妻にと思っていたパリサや妹のヤラと別れなければならない。ギィと対峙してみて勝算が少しはあると思った。しかし、ギィの本拠地に乗り込んでとなると、今回より苦戦するのは明らかである。


 今別れ別れになってしまったら、二度と会えないかもしれない。だが、ギィと関わりがなく戦う力のない者たちを連れて海を渡るのは、良い考えとも思えないのだ。ハッサンは大事な人々を残してゆく。シャキアにも同行を勧めるわけにも行かず。


「オルデン、ちょっといいか」

「なんだよ、ハッサン」


 男2人が、すこし離れたところまで歩いてゆく。付いて行こうとした精霊たちは、ハッサンに押し留められた。



「置いてくつもりか?」


 ハッサンは聞いた。


「当たり前だろ?ハッサンだってパリサとヤラを置いてくだろ」

「俺は、仕事ん時ゃいつもそうだからな」

「今回は、生きて帰れるか分かんねぇぞ?」

「そんな危険な旅に連れてけるかよ」

「俺だって同じだよ」


 オルデンは理解できない顔をした。


「シャキアはアルジャハブたち火の精霊と仲がいいだろ」


 ハッサンが指摘する。パリサたちとは条件が違う。しかしオルデンは否定した。


「けど、戦える程の魔法は使えねぇ」

「身を守ることはできるよな」



「本気で言ってんのか」


 ハッサンの本音が判らず、オルデンは鋭い眼差しを投げる。


「戦えたって、巻き込めるかよ?」

「そりゃそうだがな」


 ハッサンは口を曲げた。


「事が済んだら、迎えに来んのか?」

「いや、」


 オルデンは言い淀む。


「だろ?」


 ハッサンは足を止めた。


「ケニー置いてこっちに住む気は?」

「それは」


 オルデンは難しい顔をした。


お読みくださりありがとうございます

続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ