187 これから
オルデンは、壊れた道具を使うことが危険だと思った。
「4年も持ってりゃ、もう慣れちまったけどねぇ。オアシスから出られんのかもわかんねぇし、変に試すのは怖いよ」
持ち主となっているバンサイも、恐ろしそうに首を縮めた。
「そうだよなあ」
オルデンは困ったように目を閉じた。
「結局、この逆さまの宮殿もデロンが自由に出入りしてた場所だしよ」
オルデンは話を続ける。
「デロンと関係ない場所に出て行けんのか試してなかったよな」
「困ってなかったんでねえ」
バンサイは少し恥ずかしそうに言った。
「じゃあ、明日、オアシス都市のバザールにでも行ってみる?」
シャキアが提案した。バンサイは遺跡とオアシス、そして宮殿が気に入って、4年もの間ずっとその絵ばかりを描いていた。画材はオルデンが魔法で増やしてくれるので、いつも充分にあった。デロンと関係のない場所に行くのは、この4年で初めてのことである。
「行ってみるかなぁ」
バンサイは同意した。
「それはそれとして」
ハッサンが口を挟む。
「ケニーたちはどうすんだ?いつあっちに戻る?」
「なるべく早く」
ケニスがきっぱりと答えた。
「できるならルイズを助けたいし、ギィが生きてればそれだけ精霊への被害が広がる」
「そうだな」
オルデンはケニスの肩をぼんと叩く。2人の肩は、もうかなり高さが近づいている。ケニスもしっかりと考えることができるようになってきた。
「ギィは悪い人を増やそうとしてんのよ」
カーラは憤慨して虹色の火の粉を飛ばす。精霊なので、あまり精神的な成長というものは期待できない。だが、カーラの決断は、ケニスたちイーリスの子孫が必ず幸せになる行動なのだ。その信頼感はある。
「悪い奴を増やす?」
ハッサンは、戻ってきた眠気に欠伸を漏らしながら聞いた。
「王族を殺そうとする奴等や、国に使うお金で自分が普段着る物を買っちゃったりする奴を野放しにしてるんだ」
ケニスは悔しそうに拳を握る。カーラはそっとその拳を包んだ。オルデンは溜め息をつく。
「悪い奴は、魔法が使えりゃ簡単に邪法を学ぶし、そうなればギィの耳目となる精霊を捕まえる効率だって良くなる」
手下となる邪悪な人間が増えて、より多くの精霊が広い範囲で捕まえられるようになるのだ。どのみちギィに敵うものなどいはしない。邪法が蔓延るほうが、魔法使いが高潔になるよりも良い。ギィの秘密に気付き、倒そうと考える者が出るリスクを抑えられる。
「なるほどなあ」
「自分の敵だからってすぐに排除しちまうと、良識派の方が多くなっちまうからな」
「はー、悪いやつの考えることってなぁ、わかんねぇな」
ハッサンは顔をしかめ、バンサイも険しい顔で首を左右に振っていた。
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続きます




