186 家族
皆が目を覚まして、中庭の花園へと駆けつけた。カーラは火柱に飛び込み、ハッサンは王墓の暴風を伴う沖風の精霊に乗って来た。水龍は宝物殿の扉に隙間を開けた。ケニスはヴォーラを額の古代精霊文字に当てた。火柱の上に集められた大量の砂が、オルデンの手によって一息に落とされる。
「末姫ルイズのところへ行ったか」
花園の松明に腰掛けて、カガリビが言った。
「これからどうするよ?」
ハッサンがケニスを見る。
「助けられるなら、ルイズを助けたい」
「どうかしらねぇ」
カーラが細い虹色の眉をひそめた。
「カーラも気がついた?」
「ええ。黒かったわ」
ギィの炎を通じて感じ取ったルイズの魂は、闇そのものであった。
「まだほんの8歳の女の子なのに、とても怖かったわ」
ケニスにとっては妹だ。存在を知ったばかりではある。だが、同じ父母の元に生まれた実の兄妹である。
「何とかして助けたいけど」
「そうね。たったひとりの妹ですものね」
「うん」
「ひとりになっちゃったのは、その子のせいだけどね」
「それもそうなんだけど」
オルデンや森の精霊達に可愛がられ、幻影半島でも大切に育てられたケニスだ。愛情深い少年に育っていた。血の繋がりというものは、正直なところよく分からない。ハッサンとヤラという兄妹をほんの数日見ただけが、親族の暮らしに触れた経験である。
オルデンも宿無しのみなしごである。本物の家族は知らない。ギィとシルヴァインの物語を聞けば、血の繋がりが全てではないようにも思ってしまう。それでも、小さな頃に憧れた温かな家族の風景は胸の奥に残っていた。シャキアとも、離れがたい不思議な気持ちで寄り添っている。
「とにかく、向こうに戻ってからだな」
オルデンは顎に手を当てて思案顔だ。
「マーレニカに上陸するか、西の山へ空から降りるか、パロルの寝床に海底洞窟を通って行くか、はたまた川を遡って、河口からエステンデルスに入るか」
「デロンの鍵を使えばいいのに」
オアシスの外れの遺跡にある炉の精霊アルジャハブが、こともなげに言った。オルデンは呆れ、カワナミが空中で笑い転げる。
「バンにくっついちまった道具か?」
「そうだ」
オルデンが聞けばアルジャハブは頷く。
「ありゃ、壊れてんだろ。使うなんてとんでもねぇよ」
バンサイは、魔法の誤作動でデロンの工房に転がっていた鍵の持ち主に登録されてしまった。そのせいで、バンサイはデロンの工房に閉じ込められていたではないか。壊れているため突然に起動し、工房の天井とオアシスの工房が繋がった。どちらもデロンが使っていた工房である。
バンサイを誤登録した道具は、各地にあるデロンの工房同士を繋げるらしい。工房の扉にかかった鍵を開けるという意味で、「デロンの鍵」と呼ばれる。もし壊れていなかったならば、かなり便利な道具であった。
「壊れた魔法の道具なんか、誤作動で何が起こるかわかんねぇだろ」
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