181 ギィは海外に目をつける
ルイズは執拗に呪いを送り、精霊を呼び集めて力を吸い出す。己の力とするために精霊を招くのだ。砂漠の魔女から脈々と受け継がれてきた邪な魔法である。
「摂政などに牛耳られるルイズではない。老害どもめ、子供と侮り諌めごとなど片腹痛いわ!」
タイグを思い通りに攻撃できずに、ルイズ姫は苛立っていた。時を待てという大人たちの教えを思い出して、更に怒りを燃やす。
ルイズは、先王が崩御した後すぐタイグ排除を行動に移したかった。時勢など無視だ。力で捩じ伏せる。我儘な子供そのものである。だがそれは、いかにもノルデネリエらしいやり方でもあった。
ギィはルイズのしつこさに閉口した。時に愛らしく、時に姫らしい傲慢さを武器にして、臣下も国民をも虜にする8歳の邪悪姫。彼女は物心つくころから、常にタイグを亡き者にしようと画策している。もちろん、世継ぎの座を狙ってのことである。
タイグは緑色の巻毛に虹色の瞳を持つ、最適な器だ。イーリスの血をはっきりと表に見せる肉体ならば、ギィの邪法を余すことなく振るえるのだ。
血は代を替える毎に薄まって、肉体も奸臣により弱くされてはいる。手足となる邪法使いが必要なので、宮中に悪を飼っておく。奸臣を排斥はしない。ギィは毒や呪いの中和を器に教える。弱まった精霊の力は、完全に毒や呪いを打ち消すのには不十分だ。
しかし、緑の髪と虹色の目を持つ嫡流長子は男女問わず、他のスペアたちとは比べものにならない、高性能な器なのだった。ギィは自分のために、精霊を使って、戴冠の今日まで大切な器を守り抜いた。
タイグとルイズの間にいる兄妹たちや先王オーウンの兄弟といった直系親族は、ルイズがタイグ王に仕掛けた時に呪いを受けた。明日の朝には冷たい骸だ。ギィの乗り移り先である器のスペアが、一息に壊されてしまった。ルイズの魔法はそれ程に威力を持つ。
「ちと煩いな。ケニスに移って様子を見るか」
ギィは呪いを打ち消すことなど容易いが、いつまでもチョッカイをかけられるのが煩わしくなった。一旦タイグの肉体を捨て、生存が感じられるケニスの身体に移動することにしたのである。
「海の向こうか」
場所を探り当てたギィはニヤリと黒い笑いを浮かべる。いままでは、スペアのひとつに過ぎなかったケニス。だから、さして注意を払っていなかった。ヴォーラもギィには不用の剣だ。砂漠の魔女は執着していた。だが長い年月が流れ、ギィは手に入れても入れなくても、どちらでもよくなっていた。
龍の硬い鱗すら貫く、幸運を喰らう剣ヴォーラはついでである。海の向こう、幻影半島に居ることこそが、今のギィには関心を呼んだ。
「森より前に海とその向こうを取るのも、また一興だな」
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