18 何も無い地下
ケニスは何もない床に興味を示す。
「カワナミ、下の床にも魔法錠ある?」
「知らなーい」
カワナミは無意味にゲラゲラ笑う。
「こっからだと気配はねぇな。降りてみるか?」
「うん!」
「ゆっくりは出来ねぇぞ?」
時間をかけていると、遺跡が気まぐれに隠れてしまうかもしれない。その場合にケニス達がどうなってしまうかは依然として聞けていない。オルデンは、地下の床まで降りてゆく間にカワナミにその点を聞いてみることにした。
「なあ、カワナミ」
「なあに、オルデン」
「遺跡が隠れちまった時に中にいたらどうなるんだ?」
カワナミは、幼い子供の声で笑いながら渦になったり透明な少年になったりした。
「笑ってねぇで答えろよ」
オルデンは渋面を作る。
「何でそんなこと聞くのー?」
「何でってお前ぇ、閉じ込められたくねぇからだよ」
「んー?何言ってんの、オルデン!」
カワナミはゲラゲラ笑って相変わらず答えようとしない。オルデンは諦めて、地下を出たら他の精霊に聞こうと決めた。不思議なことに地下部分には、他の精霊は1人もいなかったのだ。
「そう言やあ、地下にはカワナミしかいねぇよな?」
「そうだねえ、何で?」
ケニスも不思議そうだ。しかし、カワナミも分からないようだった。
「何でかなあ?興味無いんじゃない?」
精霊は気まぐれなので、それもあり得る。だが、オルデンには別の理由があるような気がしたのだ。川の中にいた仲間たちは、皆ケニスを心配していた。それに、精霊達はもともと好奇心が旺盛である。カワナミ以外が付いてこないのは、すこし不自然だった。
そうこうするうちに、一行は床面に足をつけた。ケニスもオルデンの腕から降りる。
「付いたね」
ケニスが喜ぶ。床石を眺めて歩き回ったり、真ん中の巨大な柱に触ってみたりと、活発に動き回る。決意の時に見せた大人びた様子は影を潜めて、すっかり5歳の少年に戻っていた。
カーラは黙ってランタンを提げている。カワナミは一行の周りをぐるぐる泳ぎ回っている。
「特に入り口はねぇみてぇだなあ」
オルデンは床を見回す。だが、何も見つけられなかった。
「なんにも無いねぇ」
一旦側を離れて床面を調べて来たカワナミが言った。
「デロンの気配が無いわ」
カーラが虹色の細い弓形の眉を寄せる。
「長い時が経ったんだよ」
オルデンは少し眉を下げて慰める。カーラは虹色の涙をはらはらと零した。
「ほんとに居なくなってしまったのね」
カーラの波打つ髪から虹色の火花が散る。仄かに明るい赤い水の中で、精霊の火の粉がパチパチと音を立てた。
「出るか」
「そうだね」
ケニスも地下の探検に飽きて、一行は四角い穴から川床に出た。たちまちに精霊達が集まってくる。
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