178 簒奪者ルイズ
戴冠祝賀の大宴会では、アーリングが精霊派に目を光らせていた。精霊派は、魔法が使えず権力もない娘たちをさりげなく新王に紹介していたのだ。タイグの勢力を弱め、ルイズの政権奪取を実現するのに有利となる妃を当てがおうとしていた。
アーリングは、王の外戚を狙う有力貴族たちに近づいてゆく。
「この度はご戴冠祝賀おめでたいことでございます」
「やあ、アーリング、新王陛下ご戴冠おめでとう」
「ご戴冠おめでとう、アーリング」
「新王陛下ご戴冠おめでとう」
数人の有力貴族が応じる。彼等は既にアーリングの息がかかっている。
「次は新王陛下のご婚儀ですかなあ?」
「そうなればよいのだがな」
「先程よりの祝賀ダンスのお相手は、みな精霊派の連れて来たお若いご令嬢がたですな」
アーリングは焚き付けるような含みを持たせて言った。
「やつら、妙な技で割り込ませるのだ」
「我らの娘どもを連れて行くと、タイグ陛下に近づけない」
「なんと。それは妙ですな」
傀儡派の貴族たちは一斉に頷いた。
「もっと妙なのはな、アーリング」
「他にも妙なことが?」
「そうだ。奴等がご挨拶に連れて行く娘らだが」
「ご令嬢がたが?」
アーリングは、着飾った若いお嬢さんがタイグ王と踊る様子を横目で見る。
「あの娘らは、自分たちの娘ではないぞ」
「え?あの方々のご息女ではないと」
「その通りだ。遠縁や配下の家から集めてきた娘らだ」
「奴等、汚い真似を」
新王タイグの力を削ぐ為に、有力貴族のご令嬢方と知り合う機会を魔法を使って潰してくる。有力貴族たちと違って、精霊派はタイグ王の外戚の地位を狙わない。
「カビの生えた伝説にしがみついて、魔法だ精霊だと幼稚なことをほざく連中め」
アーリングは毒づいた。
「ルイズ姫はようやく8歳ではないか」
ルイズ姫は、戴冠祝賀会にも出席していない子供である。子供には子供の祝賀会が別途用意されている。
「今から勢力図を塗り替えておきたいのだろう」
傀儡派の有力貴族が言った。
「いや、ルイズ姫はあなどれぬぞ」
「何?」
「同じ年頃の子どもたちも、親世代も、少し上の子どもたちも、ルイズ姫に取り入ろうと必死なのだ」
「やはり健康が魅力なのか」
「いや、魔法もあるとは思うのだが、人の感情を操る才能があるのだ」
8歳の邪悪姫は、既に宮中の権力をその手に収めつつあった。邪法で捕らえた精霊をうまく使って、タイグが傀儡として心身を弱めているという情報も握っている。
「陛下?」
ルイズの力を苦々しく語っていた時のことである。タイグの体から炎が染み出した。これは、邪法使いにだけかろうじて見えたのだが、表情が急に険しくなったのである。異変と言っても良い出来事だ。
普段の穏やかな言葉とは似ても似つかない荒い呟きが、タイグの口から溢れ出た。
「小娘が。このひ弱な器にようやく馴染もうと言う時に仕掛けてきおったか」
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