174 タイグの物語
今から14年ほど前のことである。精霊王朝に、また新たなギィの器が誕生した。双子の王子である。兄は精霊の森深くに捨てられ、弟は詩人と言う名を貰った。
この時ギィの器だったのは、双子の父である。ノルデネリエ精霊王朝の王で、名を貴人と言った。イーリスは遠い祖先となって、精霊の力はとても弱い。魔法もそれなりに出来るだけ。
ここ数代の直系王族には、精霊の血や魔法の才能が現れたとしてもごく弱いのだった。古代から生き続けるギィの強大な力に、肉体も精神もすぐに耐えきれなくなってしまう。
それでもギィの魂とは、直系長男がいつも一番相性が良い。ギィは歴代王を器として乗り換えながら、今にその命を繋いでいる。双子の場合、自身が双子の弟だからなのか、例外的に弟との相性が一番だった。
オーウン王は双子であった。ノルデネリエでは、双子の王族が不吉とされている。特に双子の兄は、ノルデネリエに凶運をもたらす者と伝えられているのだ。
これは、ギィの肉体を滅ぼした双子の兄シルヴァインへの怨みから来る伝承だ。これによりオーウン王の兄は、生まれてすぐに殺された。精霊に愛されるオルデンは、その赤子が生き延びた姿なのかと誤解されてしまった。本当は、ノルデネリエ精霊王朝と無関係な孤児であるにも関わらず。
タイグの兄こそが、森で泥棒オルデンに拾われたケニスである。二代続けての双子であった。宮中では不吉な影に怯える者たちが増えていた。そこに付け込んで勢力を伸ばしたのが、遠縁の男、傍系だ。
アーリングは王家からかなり血が遠く、古代精霊文字も読めない。もちろん、ギィの器に現れる焔を表す文字は見えない。その存在すら知らなかった。精霊と精霊に愛される智慧の子だけが、見て、読んで、理解することが出来る文字なので、当然だ。
ギィの邪な性根だけを引き継いだアーリングは、歴代早世する精霊王朝の嫡流を廃そうと狙っていた。遠縁のため、王宮に上がるチャンスもなかなか来ない。だが、遂にその機会を得た時、悪運はアーリングに味方した。
薬草調査に田舎を訪れた宮廷のお抱え薬師に取り入ると、あとは嘘のように事が上手く進んだ。調査団は、アーリングの人当たりがよく健康的な活動を、流石は王家の末流と褒めた。
ある日、渓流のほとりでアーリングと薬師は、ひと群の毒草を見つけた。
「先日絵で観た万能薬だな?」
「いえ、猛毒にございます」
「この毒草は、万能薬に見た目がそっくりじゃないか」
「はい、アーリング様」
薬師はすました顔で猛毒草を採取する。
「採取するのか」
「はい、使いようもございます」
「ふむ。却ってそれが薬になる症状も?」
「大局から見れば、その通りにございます」
冷たい灰色の瞳が、薬師の日に焼けた顔の中で光った。
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