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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第四章 イーリスの子供たち
170/311

170 叡智

 アルジャハブは幻影半島の精霊である。精霊の森については知らない。カガリビは困ったように炎で出来た腕を組む。


「森の叡智は森の叡智だぜ?オアシスの叡智はないのかよ?」

「水龍みたいな奴か?」

「いや、水龍に似てるのはパロルだな」


 パロルは、ケニスの祖先ジャイルズの時代に精霊の森の西にある山に住んでいた、賢い龍だ。水龍はパロルよりも少し後の時代に生まれたようで、まだ生きている。デロンと出会ったのはパロルよりも先だが、生まれたのは後である。ここにいる水龍は精霊でも幽霊でもなく、実態のある本体だ。


「誰かの声って訳じゃなくてな、その場所に積もったいろんな智慧みたいなもんだ」

「へーえ、何だかよく分かんねぇな」

「聞こうとすりゃ、聞けんだがなぁ!」



 カガリビがもどかしそうに火の粉を散らした時、火の柱からギィの叫び声が上がった。ケニス、ヴォーラ、カーラ、そしてカワナミの奮闘に、とうとう水龍が宝物殿から出て来たようだ。水でできた鳥の姿をしたオアシスの精霊も飛んできた。宮殿の魔法と精霊は、完全に動きを取り戻したのだ。


「ケニーッ!」


 オルデンも血相を変えて飛び込んできた。砂のトカゲが知らせたらしい。オルデンの肩には、枯れ草の精霊が落ちないようにしがみついている。


「おいおい、やべぇな」


 すぐ後に続いて駆けつけたハッサンは、サダをスラリと抜き放つ。廊下をどどうっと吹き抜けて来た沖風の精霊が、ハッサンを掬い取るようにして背中に放り上げた。



 ギィも負けてはいなかった。自分の炎を通して、配下の精霊たちを呼び寄せる。ノルデネリエの邪法使いの親玉はギィだ。家臣として抱える邪法に染まった魔法使いが捕らえた精霊も、ギィの命令には逆らえない。


「邪魔者め」


 宝物殿や回廊の壁にさまざまな邪法の文字を書こうと炎の舌を伸ばす。だが、ケニスに乗り移ろうとしながらなので、ギィの力は思いの外弱い。風に、水に、砂に、あるいは同じ炎にも、文字を消されてしまう。名前を呼ぼうと声を上げる度に、花園の攻撃植物も含めた一斉攻撃で中断させられる。


「がああああー!」


 宝物殿が熱風と怒声に揺れる。水龍は怒りを露わにして、水の針を降らせる。精霊の炎は普通の水で容易く消せることなく燃え続ける。だが、龍の力が込められて、宮殿の魔法も合わさっている水だ。



「アキームは?王様来ないの?」


 カーラが咎めるように言った。


「生意気な娘よ、王は墓場を離れることができぬ」


 その代わり、墓場で吹き荒れていた魔法の暴風が廊下を走り抜けてやって来た。


「ひゅうっ!」


 ハッサンが口笛を吹く。アキームの暴風に送られ、沖風の精霊がスピードを増す。風そのものも炎を切り裂き、青く光る曲刀もハッサンの手で閃く。ギィは怒りに任せてますます火勢を強くした。


「オアシスの賢慮(アキーム)も頼りになるぜ!」


 ハッサンは水龍の側で力を貸すカガリビに向かって、得意そうにニヤリと笑った。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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