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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第一章 国境の森
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17 カーラの顕現

「ええっ?契約精霊が道具から出ちゃったよ?」


 カワナミがゲラゲラ笑い出す。カーラはまるで人間の子供のような姿をしている。ランタンでは虹色の焔がまだ燃えている。


「どうなってんだ」


 オルデンは紫色の眼を丸くする。カーラは虹色の髪を豊かに波打たせ、瞳も虹色に輝いている。だが色白の肌にはケニスと同じように健康的な薄桃色が差している。ランタンの中では全身虹色だったのだが。藍色に金の星を散らしたワンピースも愛らしい。


「これからよろしく、みんな」

「えっ、うん」


 カーラは先ほどまでの争いなどまるで無かったかのように、元気に挨拶をする。そのあたりはやはり、精霊である。



「あたしはね、精霊龍の最期の吐息なんだ」

「この絵……!そうか」


 オルデンは合点が行ったように頷く。カーラのランタンが置かれていた厨子には、象牙の扉が付いている。そこに浮き彫りで描かれているのは、火炎を身に纏った飛龍とランタンを手にした人間であった。


 おそらくこの浮き彫りは、カーラが誕生した時を写し取った絵なのである。




「だから、道具が壊れたら消えるだけなの」


 ケニスは抱っこされたまま、オルデンの顔をもの問いたげに見る。


「続きは、外出てからだな。カーラ、ランタン持って着いてきな。ケニー、カーラ連れてくだろ?」

「うん、仲良くできるなら」


 ケニスは少し疑っている。


「もうあんなこと言わない」


 カーラはキッパリと言った。


「まあ、顕現出来たんだからな。さっきとは違うぜ」

「デン、後で全部教えてよ?」

「勿論だぜ、ケニー」



 一行は扉の外に出る。赤黒かったケニスの光は澄んだ赤に戻り、朝焼けのように水を染めている。


「何にもないわ」


 ケニスから溢れ出る光に照らされて、遺跡の地下は底まで見えるようになった。床にはきちんと切り出された大理石が並べられ、壁も柱もみな立派な大理石だ。柱は川床に倒れていたものと同じく四角かった。


 地下は四方を壁に囲まれている。しかし、仕切りは一切なかった。崩れた壁すらない。柱も四隅と真ん中にあるだけだ。明るくなってみると、地下はさほど広くない。ただ、深さはかなりあるようだ。


 中肉中背のオルデンが3人肩車したくらいはありそうだ。四方の壁には何もない。ひとつだけ、カーラがいた部屋の扉を除いては。その扉は、床よりだいぶ上の高い位置にいきなりついている。



「誰もいないのね」


 カーラはぐるりと地下を見回して言った。


「カーラの為だけの空間なんだろうぜ」


 ここには、元から何もなかったように見えるのだ。


「ここに川が出来る前から、何かあっても壊れないように地下の部屋を作っておいたんだな」


お読みくださりありがとうございます

続きます

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