169 智慧の力と精霊たち
カワナミは水の姿で揶揄うようにギィの炎の周りを流れてゆく。笑い声は花園に響く。
「オルデンの智慧の力と、森の叡智やデロンの秘術に守られたケニスを乗っ取れるもんか!バカだねぇー!」
「ほざけ。ひよっこが」
ギィは炎の先で執拗に邪法の文字を刻もうとするが、ことごとくカワナミに阻止される。ケニスの支配も上手くいかない。苛立ちを見せて花園や宝物殿を燃やそうとしても、水龍が髭や眼を動かす度に花園の攻撃植物が少しずつ存在感を現してゆく。
「ケニスは特別さ」
「あっ、カガリビ、おっそいなぁー」
消えていた花園の松明が急に燃え上がり、カガリビが出てきた。ギィの来襲に隠れて様子を見ていた、逆さまの宮殿に住む精霊たちが戻って来たようだ。宝物殿を取り巻く花園の魔法も再び動きを見せている。松明の炎もその一つだった。
「幸運でもすぐには押し返せない邪法だぞ?」
「なんだ、怖いの?」
「カワナミはもっと怖がったほうがいい」
「油断して邪法使いの手先になるなよ?」
アルジャハブも松明から顔を出す。この宮殿の魔法が戻れば、精霊の道も開く。カガリビやアルジャハブも現れることができるのだった。
宝物殿の扉も細く開いている。逆さまの宮殿を守る水龍が、たまに口を挟んだりしながら様子を伺っているのだ。逆さまの宮殿は、かつて智慧の子であるアキームが主であった。魔法に優れ、精霊たちに愛される人間が智慧の子と呼ばれる。
「水龍ものんびりしてないで、ギィなんか追い払っちゃえばぁ?」
「カワナミよ、強大な魔法の力を持つものを相手取る時は、まずじっくりと観察するものだ」
「あははは!お爺ちゃんだなぁ!」
水龍は精霊ではないが、アキーム王の親友だった。だから、精霊たちに危険が迫りヤキモキしていたのである。宮殿の魔法は、ギィが行う邪法の影響で弱まっていた。だが、宝物殿を取り巻く花園は水龍の力で多少の魔法を保っていたのだ。湖底にまで届く勢いのギィが立てる火柱に、花園はからくも反撃して延焼を抑えた。
「迂闊な行動で精霊が全滅することだってあり得る」
水龍はあくまでも慎重派だ。
「カーラも、後先考えずに飛び込んだな」
「カーラはノルデネリエの導き手だからな。イーリスの子供たちに関わることなら、本能でわかるのさ」
アルジャハブの発言には、カガリビが答えた。花園では、拮抗していた力のせめぎ合いに、カーラの登場で変化が訪れていた。そこへ気まぐれなカワナミがやってきた。智慧の子が目覚めさせ名付けた、特別の精霊である。
「カワナミもああ見えて森の叡智の声を聞ける奴だけどな」
「カワナミも言ってたみてぇだが、森の叡智ってなんだ?カガリビ」
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