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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第四章 イーリスの子供たち
160/311

160 月光で開く扉

 日も暮れかけて、一同は月の光で開く扉の前に集まってきた。扉は金色で、色とりどりな宝石が散りばめられている。濃い青、薄い青、暗い赤、明るい赤、深緑に黄緑に、オレンジ色やピンクに紫。数え上げればキリがないほどにカラフルだ。


 今はまだ月の光が届かず、夕焼けが薄紫へと変わり始める時間である。バンサイすらも手を止めて、みな沈黙のうちにその時が来るのを待っている。手を繋いだケニスとカーラは、いつもより近く身を寄せ合っていた。



 やがて静かに金の扉が藍色の中に沈み、仄かに注ぐ銀青の光が宝石を星のようにチカチカと瞬かせる。もう扉は開く筈だ。しかし誰も動かない。精霊たちは、なぜか姿を消していた。いつも騒がしいカワナミの声も聞こえない。


 ヴォーラとサダの光は鞘を包むように漏れ出している。カーラの瞳が虹色に戻り、巻き毛も根本から虹の色へと変わってゆく。ケニスの頭も緑に戻る。瞳はカーラとお揃いだ。2人とも本来の姿になった。


 カーラが扉へと無言で手を伸ばす。動きに釣られて、それまで扉を見守っていた一同がケニスとカーラの姿を捉えた。



「えっ」

「これが本当の姿なのかぁ!」


 バンサイが息を呑み、ハッサンは呑気な口調で静寂を破る。頻繁に火の粉を飛ばしていたとはいえ、カーラの髪は茶色、目の色は紫色だった。ケニスも茶色と紫だった。


「デン、魔法とけちゃったぜ」

「でも、息は出来るのね」

「宮殿に水も入ってこないや」

「逆さまにもならないわ」


 子供たちが騒ぐ。


「魔法の時間が来たんだな」


 オルデンの言葉には、皆が不思議そうな顔をした。


「魔法が解けたのに?」


 ハッサンが聞いた。


「隠されていたものが現れるんだぜ」


 オルデンが愉しそうに皆の顔を順番に見る。シャキアは頬を紅潮させた。


「まあ!隠されていたものが?」

「そうだぜ。この部屋の中もだ」

「早く入ろうぜ!」


 ケニスがオルデンに催促する。


「中は安全なのか?」


 ハッサンは少し心配そうだ。オルデンは肯首した。


「危ねぇ気配は無ぇな」

「開けていいかしら?」


 カーラがせっかちに問う。どこか気がかりなことがありそうな顔だ。


「カーラ?どうしたの?」

「大丈夫よ、ケニー。幸せなほう、だわ」

「本当に?何かあるなら言ってくれよ?」

「何もないわ。いえ、解らないのよ」

「解らない?カーラにも?やめとくか?」


 オルデンが眉を寄せて警戒する。シャキアは、気遣わしそうな様子でオルデンに寄り添う。


「いえ。幸せなほうなのよ。それは確かなの」

「カーラ、行ってみよう」

「そうね、ケニー。行けばわかるわ」


 2人は緊張で硬くなる。オルデンは安心させるようにカーラを見て頷いた。


「カーラ、開けてみようぜ」

「ええ。開けるわよ」


 カーラの日焼けした細い指が、宝石に隠れていた引輪にかかる。皆の視線が扉の合わせ目に集まった。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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