160 月光で開く扉
日も暮れかけて、一同は月の光で開く扉の前に集まってきた。扉は金色で、色とりどりな宝石が散りばめられている。濃い青、薄い青、暗い赤、明るい赤、深緑に黄緑に、オレンジ色やピンクに紫。数え上げればキリがないほどにカラフルだ。
今はまだ月の光が届かず、夕焼けが薄紫へと変わり始める時間である。バンサイすらも手を止めて、みな沈黙のうちにその時が来るのを待っている。手を繋いだケニスとカーラは、いつもより近く身を寄せ合っていた。
やがて静かに金の扉が藍色の中に沈み、仄かに注ぐ銀青の光が宝石を星のようにチカチカと瞬かせる。もう扉は開く筈だ。しかし誰も動かない。精霊たちは、なぜか姿を消していた。いつも騒がしいカワナミの声も聞こえない。
ヴォーラとサダの光は鞘を包むように漏れ出している。カーラの瞳が虹色に戻り、巻き毛も根本から虹の色へと変わってゆく。ケニスの頭も緑に戻る。瞳はカーラとお揃いだ。2人とも本来の姿になった。
カーラが扉へと無言で手を伸ばす。動きに釣られて、それまで扉を見守っていた一同がケニスとカーラの姿を捉えた。
「えっ」
「これが本当の姿なのかぁ!」
バンサイが息を呑み、ハッサンは呑気な口調で静寂を破る。頻繁に火の粉を飛ばしていたとはいえ、カーラの髪は茶色、目の色は紫色だった。ケニスも茶色と紫だった。
「デン、魔法とけちゃったぜ」
「でも、息は出来るのね」
「宮殿に水も入ってこないや」
「逆さまにもならないわ」
子供たちが騒ぐ。
「魔法の時間が来たんだな」
オルデンの言葉には、皆が不思議そうな顔をした。
「魔法が解けたのに?」
ハッサンが聞いた。
「隠されていたものが現れるんだぜ」
オルデンが愉しそうに皆の顔を順番に見る。シャキアは頬を紅潮させた。
「まあ!隠されていたものが?」
「そうだぜ。この部屋の中もだ」
「早く入ろうぜ!」
ケニスがオルデンに催促する。
「中は安全なのか?」
ハッサンは少し心配そうだ。オルデンは肯首した。
「危ねぇ気配は無ぇな」
「開けていいかしら?」
カーラがせっかちに問う。どこか気がかりなことがありそうな顔だ。
「カーラ?どうしたの?」
「大丈夫よ、ケニー。幸せなほう、だわ」
「本当に?何かあるなら言ってくれよ?」
「何もないわ。いえ、解らないのよ」
「解らない?カーラにも?やめとくか?」
オルデンが眉を寄せて警戒する。シャキアは、気遣わしそうな様子でオルデンに寄り添う。
「いえ。幸せなほうなのよ。それは確かなの」
「カーラ、行ってみよう」
「そうね、ケニー。行けばわかるわ」
2人は緊張で硬くなる。オルデンは安心させるようにカーラを見て頷いた。
「カーラ、開けてみようぜ」
「ええ。開けるわよ」
カーラの日焼けした細い指が、宝石に隠れていた引輪にかかる。皆の視線が扉の合わせ目に集まった。
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