159 ケニスを守る者たち
始まりの双子は、邪法に染まった弟を兄が殺した。弟はまだ妻の胎にいた我が子を、邪法で器としていた。魂となった弟ギィは、我が子から直系子孫へと次々に体を乗っ取ってきた。額に現れる火焔を意味する古代精霊文字が、ギィの心臓でもあると予見される。そうして、今にその命を繋いでいる。
「幸運剣ヴォーラとカーラの炎なら邪法の文字だけ燃やせるんじゃねぇかとは思うけどよ」
オルデンはカガリビの考えを信用できないようだ。オルデンが森に来たのはまだ少年に近い若者の頃であった。カガリビとの付き合いは長い。そのオルデンからの同意を得られず、カガリビは不服そうに炎でできた手足を揺らした。
「オルデンもダメって言うのかよ」
「そりゃ、カガリビは歳喰ってるだけの焚火の精霊だからなあ」
「てめぇ、オルデン!馬鹿にすんなよ!」
カガリビは憤慨して大きく燃え上がる。隣でアルラハブもごおっと音を立てて炎を膨らませた。
「歳喰ってるだけたぁ、聞き捨てならねぇなぁ」
アルラハブは、邪法の問題をすっかり忘れて憤慨した。
「あなた達の炎で焼いたら、肉体まで焼けてしまうんじゃないの?」
シャキアがオルデンに同調する。
「まあ、そりゃたぶん」
アルラハブは、その点は認める。
「そうなんだがよ」
アルラハブはプイとそっぽを向いて、決まり悪そうに火の粉を飛ばした。カガリビは激しく炎を伸び縮みさせている。
「ギィはイーリスの子だから、炎の精霊じゃそもそも相性が悪いんじゃないのかしら」
シャキアが常識的な意見を述べる。
「そこはまあ、なんとかなるだろうけど、厳しいかも知れねぇなあ」
「けっ、アルラハブ、ひよるんじゃねぇぞ」
「けどよぉ、カガリビ。邪法だけ取り除くなんてできんのかよぉ」
「そこでヴォーラなんだよ」
オルデンが断言する。
「確定じゃねぇがな?ありゃ幸運剣だろ?ケニーがヴォーラを上手く使えば、奇跡も起こるってもんさ」
「そのために練習してるのね」
「その通りだ。焚き火どもは、4年間何みてたんだよ」
カガリビに至っては、ケニスにヴォーラを託した9年前から側で見てきた筈なのだ。
「いや、わかってるさ。分かっちゃいんだけど」
カガリビが不貞腐れて、花園に燃える松明に溶け込んでしまった。オルデンが拾って来た時から数えれば、ケニスと過ごして14年。すっかり身内なのだ。自分も共に邪法と闘いたかったのである。
「砂漠の魔女に付けられた火焔の御子って名前は、精霊の力を縛ってるから、人間の部分だけ残しゃいいって寸法よ」
この考えは、以前はただの思いつきに近かった。しかしオルデンは、今や殆ど確信している。この4年、ケニスが本格的にヴォーラとの交流を学んでいる姿を見守った結果である。
「精霊王朝の直径王族たちが縛られてるのは、精霊としての名前だけなのね?精霊の部分だけ支配されてるってこと?」
「そういうこった」
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続きます




