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不在の王妃  作者: 黒森 冬炎
第四章 イーリスの子供たち
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159 ケニスを守る者たち

 始まりの双子は、邪法に染まった弟を兄が殺した。弟はまだ妻の胎にいた我が子を、邪法で器としていた。魂となった弟ギィは、我が子から直系子孫へと次々に体を乗っ取ってきた。額に現れる火焔を意味する古代精霊文字が、ギィの心臓でもあると予見される。そうして、今にその命を繋いでいる。


「幸運剣ヴォーラとカーラの炎なら邪法の文字だけ燃やせるんじゃねぇかとは思うけどよ」


 オルデンはカガリビの考えを信用できないようだ。オルデンが森に来たのはまだ少年に近い若者の頃であった。カガリビとの付き合いは長い。そのオルデンからの同意を得られず、カガリビは不服そうに炎でできた手足を揺らした。



「オルデンもダメって言うのかよ」

「そりゃ、カガリビは歳喰ってるだけの焚火の精霊だからなあ」

「てめぇ、オルデン!馬鹿にすんなよ!」


 カガリビは憤慨して大きく燃え上がる。隣でアルラハブもごおっと音を立てて炎を膨らませた。


「歳喰ってるだけたぁ、聞き捨てならねぇなぁ」


 アルラハブは、邪法の問題をすっかり忘れて憤慨した。


「あなた達の炎で焼いたら、肉体まで焼けてしまうんじゃないの?」


 シャキアがオルデンに同調する。


「まあ、そりゃたぶん」


 アルラハブは、その点は認める。


「そうなんだがよ」


 アルラハブはプイとそっぽを向いて、決まり悪そうに火の粉を飛ばした。カガリビは激しく炎を伸び縮みさせている。



「ギィはイーリスの子だから、炎の精霊じゃそもそも相性が悪いんじゃないのかしら」


 シャキアが常識的な意見を述べる。


「そこはまあ、なんとかなるだろうけど、厳しいかも知れねぇなあ」

「けっ、アルラハブ、ひよるんじゃねぇぞ」

「けどよぉ、カガリビ。邪法だけ取り除くなんてできんのかよぉ」

「そこでヴォーラなんだよ」


 オルデンが断言する。


「確定じゃねぇがな?ありゃ幸運剣だろ?ケニーがヴォーラを上手く使えば、奇跡も起こるってもんさ」

「そのために練習してるのね」

「その通りだ。焚き火どもは、4年間何みてたんだよ」


 カガリビに至っては、ケニスにヴォーラを託した9年前から側で見てきた筈なのだ。


「いや、わかってるさ。分かっちゃいんだけど」


 カガリビが不貞腐れて、花園に燃える松明に溶け込んでしまった。オルデンが拾って来た時から数えれば、ケニスと過ごして14年。すっかり身内なのだ。自分も共に邪法と闘いたかったのである。



「砂漠の魔女に付けられた火焔の御子って名前は、精霊の力を縛ってるから、人間の部分だけ残しゃいいって寸法よ」


 この考えは、以前はただの思いつきに近かった。しかしオルデンは、今や殆ど確信している。この4年、ケニスが本格的にヴォーラとの交流を学んでいる姿を見守った結果である。


「精霊王朝の直径王族たちが縛られてるのは、精霊としての名前だけなのね?精霊の部分だけ支配されてるってこと?」

「そういうこった」


お読みくださりありがとうございます

続きます

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