158 炎の精霊たち
オルデンの静かな視線を指先に感じて、シャキアも自ずと眼を伏せる。心がほんのり色づくのを感じて、そっとオルデンの肩に頭を預けた。2人の顔は、幸せそうに和らいでいる。風が微かに衣服を揺らす。
花園に灯された魔法の松明から、カガリビとアルラハブが顔を覗かせた。シャキアの住む遺跡には、消えない炎が燃える炉がある。その昔デロンが使った魔法の炉には、燃える精霊アルラハブがいる。炉の火が消えない理由でもある。時を経てシャキアの相棒となったアルラハブは、オルデンについてきたカガリビと意気投合していた。
「人間になりかけたままどっちつかずの精霊なんて、おかしなこともあるもんだよな」
アルラハブは、仲良くなったカガリビに話しかける。カガリビは、ケニスの祖先ジャイルズが熾した焚火から生まれた。世界を旅する水の精霊と違って、炎の精霊は普通生まれた場所にずっといる。だが、カガリビは気ままに各地の炎を渡り歩く。
カガリビと気の合うアルラハブは、これまで遺跡の炉を出たことが無かった。今日カガリビに誘われて、初めて離れた場所の松明へとやってきた。精霊の路を通って訪れたのである。
「カーラを遺したイーリスは、人間との子供を産んで半端な存在になったしな」
「へー」
炉の火に飛び込んだり外へ出たりしながら、カガリビとアルラハブはお喋りを続ける。
「契約精霊なんて、本体から切り離された力のカケラに過ぎねぇ筈なのによ」
「ほんとに珍しい精霊なんだな」
「ケニーん中のイーリスの血も、考えてみりゃあ随分薄まってるはずだよな」
オルデンが精霊たちの会話に、不思議そうな様子で口を挟んだ。
シャキアがそれに答えて言った。
「ケニーみたいな子は、先祖還りって言うんじゃない?」
「先祖の血が急に濃くでるやつか」
「そうよ。ねえ、あの子、双子なんでしょ」
「そうらしいな。双子の兄は不吉だとか言われて、親に殺されそうになってんだ」
「兄貴だったシルヴァインは弟ギィの肉体を滅ぼしたからな」
当時を知るカガリビが言った。その頃カガリビは、洞窟に火が熾されなければ現れることが出来なかった。ジャイルズや始まりの双子たちの最期は、洞窟を訪れるジャイルズの血族から聞くしかなかった。
「俺がいたら、最初の体から逃げ出す前にギィの野郎を燃やしてやったのによ」
「何言ってんだよ、カガリビ。魂も燃やすってのか?」
「燃やせねぇかな?」
「無理だろ」
「いけると思うんだがなぁ」
呆れるアルラハブに、カガリビは不満そうな様子で火の粉を飛ばした。
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