156 保護者たち
あかあかと燃え立つような夕陽が、金銀の魚がいる池を満たす。初めての口づけに胸を高鳴らせた少年少女は、池のほとりで、うっとりと身を寄せ合っている。魚たちの宝石の目が、夕焼けの中で煌いている。鱗のたてるしゃらしゃらという金属音が水音に混ざって、幻想的な情景を盛り上げていた。
「カーラ」
ケニスがいつもよりうんと甘い声で囁いた。カーラは黙ってぎゅっと抱きつく。ケニスは幸運剣ヴォーラの訓練で硬くなった掌を、カーラの癖毛に滑らせる。
魔法で平凡な茶色に変えているカーラの髪の毛に、虹色の火花がぱちぱちと散った。星の形である。カーラが嬉しい時に飛ばす火の粉は、五つの尖った先端を持つ星の形をしているのだ。
「カーラ、熱いよ」
「ごめんなさい」
カーラはケニスの胸元から顔を上げて、悪戯そうに笑った。ケニスは最近背が伸びて、カーラとの身長差がだいぶ開いていた。まだオルデンよりは小さく細いが、もう華奢な少年とは言えない。剣を持つ人に相応しく、全身がしなやかな筋肉で覆われていた。
「気をつけてね?」
「わかったわよ」
「カーラかわいいなあ」
ちょっと拗ねたカーラを見て、ケニスはこれでもかとばかりに目尻を下げる。そのまま顔を近づけると、そっとカーラの唇に触れた。
精霊たちは共にいたいと思えば何の戸惑いもなく側にいる。したいことをする。カーラは特殊な状況で生み出された精霊だが、そこは同じだった。ケニスにも遠い精霊の血が流れていて、普通の人間よりも躊躇なく行動する。
オルデンやシャキアの教育で、ふたりは人間としての暮らしを身につけた。ただ、オルデンは精霊寄りの人間であり、みなしごの泥棒である。保護者がオルデンだけだったら、子供たちは身を守る術や逃げる技術だけを覚えたかもしれない。
「シャキアがいてくれて助かるぜ。年頃の女の子なんざわかんねぇからなぁ」
「そうね、デン。女同士の話もあるわ。男同士の話だってあるでしょ?」
「まあな」
オルデンはシャキアに感謝していた。シャキアも町外れの遺跡に住み着いた、常識外れの職人ではある。誰かに許可されたわけでもなく、忘れられたデロンの工房を見つけて勝手に使っているのだ。炉に棲んでいる炎の精霊アルラハブに気に入られ、普通の人間からは隠されている工房に招かれたのである。
遺跡の床には古代精霊文字が残されている。砂で削れた文字には、もう精霊の助けを願う力が残っていない。それでも、デロンの両親が幻影半島に伝えた古代精霊文化の名残は残っている。都市そのものの精霊がいて、廃墟を守っているのだ。
ここには、招かれた者しか入れない。バンサイには精霊が見えないが、壊れたデロンの鍵の影響なのか、古代精霊文明の遺跡を認識出来ていた。
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