155 照り返す夕陽の池で
ハッサンは広間で鍛錬を初め、ケニスとカーラはオルデンや精霊と魔法の練習をする。バンサイとシャキアはそれぞれに宮殿を歩き回ってスケッチをした。
オルデンとケニスは、練習をしなくても大抵の魔法が使える。だが、ノルデネリエに凶運をもたらすものとして命を狙われている身の上である。オルデンについては人違いなのだが、狙われていることには変わらない。身を守る為に、常に新しい魔法を研究しているのだ。
「休憩するか」
オルデンが声をかける。
「うん」
「そうね」
子供たちが同意する。
「飯まで好きに過ごしたらいい」
「わかった」
「行きましょ、ケニー」
ふたりは手を繋いで駆け出した。
「おい、転ぶなよ」
「平気よ!」
「デン、俺たちもうチビじゃねぇよ」
「こら、大人だって転ぶときゃ転ぶんだ」
「もう、心配性ね」
「大丈夫だって」
父親の顔を見せるオルデンを笑い飛ばして、2人は鍛錬していた広間を駆け出して行った。
2人が来たのは、おやつを食べた部屋だ。真ん中に池のあるほかは何もない。池には金銀の魚が泳ぐ。宝石の目をした魚は、宝石で出来た花の間を泳ぎまわる。
「この魚たちも、うんと昔からいるのかしら」
「思い出が映るかな?」
ケニスは魔法の樹から貰い受けた懐中鏡を取り出す。好奇心から円い魔法の鏡を魚たちに向けると、光がピカピカと反射した。金銀の鱗と鏡とが互いに跳ね返し合う午後の日は、赤みを帯び始めていた。
「眩しい」
カーラは思わず目を瞑る。白っぽいモザイクの床と壁、そして高い天井を支える四角い柱に、不規則な水玉模様が乱舞した。
ぎゅっと目を閉じて首を縮めるカーラが可愛くて、ケニスはふふっと笑った。
「やあね。笑うことないでしょ」
カーラが膨れると、ケニスはますます相貌を崩した。
「カーラ、かわいいなあ」
2人は、並んで池の周りにある段々に膝をつき、水面に身を乗り出していた。ケニスは両手を池の縁についたまま、腰を捻ってカーラの顔を覗き込む。
「やだ。ちょっと」
カーラが頬を染めて口を尖らせた。
「えっ?」
ケニスが急に顔を近づけて、微かに唇と唇をくっつけたのだ。カーラは驚いて目を見張る。
「カーラ、可愛いなぁ。大好き」
「ケニー、何すんのよ!」
カーラは目を吊り上げて睨む。2人は池の縁に手をついたまま向き合っていた。
「何って、キスかな?」
「なによ!キスって!」
カーラは憤慨して立ち上がった。ケニスも跳ねるように立ち上がる。
「キスはキスだろ」
ケニスはカーラを抱き寄せると、今度はしっかりと唇同士を押しつけた。カーラは真っ赤になってケニスに抱きつく。言葉にならない気持ちに苛立っているのか、ぎゅっと額をケニスの胸に押しつけてきた。ケニスは満面の笑みで、もう何も言わずにしっかりと両の腕をカーラの背中に回して抱きしめた。
お読みくださりありがとうございます
続きます




