154 宮殿で過ごす
オアシスに住む青緑色の龍がくれたモジャモジャの実をひとつ持って、一行は逆さまの宮殿へと降りてゆく。大人たちには、宮殿の中に銀の酒壺が用意されている。酌めど尽きせぬ酒壺は、宮殿の中であれば、オルデンが持ち歩いても良いことになっていた。コップは無くても魔法で作れる。
広い宮殿は、いちどきに全ての部屋を見て回ることが出来ないほどだ。
「今日はどこでおやつ食う?」
入り口の立派な通路を通りながら、オルデンが子供たちに聞いた。もう幼くはないが、まだ頼りなさも残るふたりだ。
「カーラ、どこがいい?」
「ケニーは?」
「そうだなぁ」
「どこがいいかしら」
ふたりは手を繋いで楽しそうに相談する。
宝物殿に着いた。龍から銀の酒壺を借りて、中庭の花園を散策する。初めて来た時に攻撃してきた魔法の草花は、今はなりをひそめている。
「シャキアは花園好きだよな」
「そうね。でも、この前ここでご飯にしたから、今日は違うところにしない?」
オルデンとシャキアも肩を寄せ合って話し合う。
「宝石が埋め込まれた扉は、まだ開けたことがなかったんじゃねぇですかね?」
バンサイの提案に、ハッサンが記憶を探りながら答える。
「あそこは確か、月の光が扉に射す間しか開かないんじゃなかったか?」
「そうだよ。夜しか入れない」
ケニスが頷く。カーラはキラリと目を光らせた。
「だったら、今日は夜までいましょうよ!」
一行は、夕暮れ時にはいつも帰っていたのである。
「そうね。夜の宮殿もきっと素敵よ」
シャキアも月光に浮かび上がる金の扉やモザイクの壁を思い浮かべて、うっとりと目を潤ませる。
「いっそ泊まるか?」
「いいのかな?デン?」
「いいよ。泊まってけ」
ケニスの不安には、オアシスの精霊が鳥の姿でやってきて応じた。
「おやつは金銀のお魚がいる池のほとりはどう?」
「いいね、カーラ。しばらくあの部屋は行ってないね」
「そうするか」
カーラの言うのは、小さめの部屋だ。床は花模様のモザイクで、真ん中に四角い池がある。池の周りは何段かの階段になっているので、そこに座ることもできた。天井は高く、上の方に明り取りの窓が円く並んでいる。池の中に泳いでいるのは、金や銀の鱗を持った細長い魚たちだ。金の魚の眼はルビー、銀の魚の眼はサファイアだった。
「いいわね」
シャキアが同意する。
「いいんじゃね?」
「それがいいや」
ハッサンとバンサイも乗り気なようだ。
おやつのあと、皆は思い思いに夕方までを過ごした。
「ご飯はどうしましょう」
「宮殿に頼みなよ!」
カワナミが現れて言った。
「え?頼む?宮殿に?」
ケニスが聞き咎める。
「宮殿の精霊たちが出してくれるよ!」
「そいつぁありがてぇ」
ハッサンは手放しで喜んだ。バンサイは精霊の声が聞こえないので、隣にいたオルデンに説明してもらった。
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